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Exhibition Information ''Baby.zip''


西麻布にあるギャラリー、
CALM&PUNK GALLERYではアーティスト・ancco(あんこ)による個展「Baby.zip」が開催中。(会期:1/21〜2/12)

「Baby.zip」は、前回CALM&PUNK GALLERY、BOOK MARCで行われた個展「MILK LAND」から約2年ぶりとなる開催だ。
前回個展から既に、彼女が主とするドローイング作品に加え、新たな試みとして陶器やフィギュアなどの立体作品が多数展示されていたが、本展はよりレベルアップした内容となっていた。平面作品の展示比率が高かった前個展と比較し、本展は立体作品を中心とした展示になっており、その中でも新作である約1mの大型陶器作品がより存在感を放っていた。

新作群の制作にあたり、彼女は「滋賀県立 陶芸の森」に4ヶ月間滞在し、陶芸のノウハウを学んだという。そこでの学びと制作過程で、彼女は幾度も壁にぶち当たった。
彼女は普段からHeaven by Marc jacobsをはじめとする、数々な有名ブランドとのクライアントワークや、海外出版社とのコラボレーションなども行っており、アナログでもデジタルでも、比較的細部への修正が可能なドローイング作品を多く手がけてきた。幼い頃から、イラストソフトで描いた自身の作品をバーチャルコミュニティー(お絵描き掲示板)で発信していた彼女は、mm単位での調整を施すことが自ずと制作の基盤になっていたと思うのだが、陶芸は今まで基盤としていたものが通用しない対象であった。

彼女は今回作品群の制作についてこう語る、「陶芸は良くも悪くも理想を打ち消してくる。そもそも強迫観念が強く、こうでなければならないという気持ちで常にがんじがらめになっている私にとってそれを受け入れることは最初は困難だった。受け入れることの連続。それは自分を受け入れていくことにも似ていた。」
陶芸は形にして、焼き上がるまでどういった仕上がりになるのかわからない。かつ、焼き上がった作品は今まで制作したドローイング作品のように、容易に修正することはできない。それは、陶芸の制作過程ならではのエキサイティングな要素だとも思うが、予め作品の理想像があり、アーティストとしての高い完成度を求める彼女にとって、満足のいく仕上がりでなければ受け入れ難いということは、ものづくりを行う私にとっても非常に共感した事柄であった。

そして、’’打ち消された理想’’とされる部分でもある、冷め割れや貫入(亀裂や欠け)は、彼女の心境の変化によりポジティブに変換され、さまざまなアプローチが見られた。

亀裂部分は銀色の塗料で覆われ、作品にアクセントをもたらしつつも、鑑賞者に制作過程の情景を彷彿させるような要素と化している。

欠落した部分からは、可愛いフロッキーのフィギュアたちが顔を出しており、まるでそのキャラクターたちの住処であるかのように作品同士が調和し、和やかで愛らしい世界が生まれていた。

いつも通りに、モチーフ、カラーリング、ディテールの様々な要素から、anccoの作品の代名詞とも言えるであろう’’カワイイ’’がふんだんに盛り込まれていた。
だが、彼女の作品は可愛さだけが持ち味ではない。人間味に溢れ、素直な感情が乗った作品であり、決して一方的ではなく、作品を観賞する側にも問いかけながら鑑賞者の素直な感情を引き出す。
それらを感じ取ることのできる本展では、彼女の作品に多く見られる悪魔や天使、動物などのモチーフに加え、’’トロイの木馬’’や’’赤ん坊’’、’’乳母車’’などの個展タイトルにもある’’Baby’’に関するモチーフが多く見られた。
タイトル’’Baby.zip’’と新作群を象徴する事柄には、彼女が今置かれている状況、客観視した時の立場の変化による葛藤や、過去を彩ってきたものたちが朽ちていく様を見たときのもの悲しさ、そこから生まれるノスタルジーがなどがある。
それらがより強く表れていると感じたのが、入口付近で鑑賞者を迎えてくれる’’重い鎖のついたおしゃぶりを咥える赤ん坊’’の作品。

彼女は自分が結婚適齢期になり、周囲や家族との気持ちの違いを恐れているという。未だに自分自身の日々のことで精一杯であるなか、この社会で子を持つということに恐怖を感じている彼女は、「親になる勇気も覚悟もなく、ただただ自分の無力さに打ちひしがれながら日々を駆け抜ける自分自身を作ったのかもしれない」と語る。
実質、子を持つことに対して、女性は男性と比較するとタイムリミットを意識しやすいと思う。身体が女性であり、将来子を持ちたいと考える私自身も、結婚適齢期には達していないが、毎回人生プランを考えるときには避けて通れない事柄であると実感している。
ただ、その選択は言わずもがなそれぞれの自由である。
この個展を通して改めて自分の考えを想起したとき、それは医学の進歩とともに変わっていく世間的基準値でもあり、仮に、周りの願望が自分をがんじがらめにし、卑下する要素となるのであれば受け入れる必要はないと私は思った。
周りから期待されようとも急かされようとも、自分自身の人生であることに変わりない。子や新たな家庭を持つことも、自分自身を極める時間に費やすことも、いずれも正しい選択であり、どちらもその人自身にとっての幸せである。

そして、完全なる私情と主観ではあるが、本展を通じてanccoという人物をより知りたいと思った。作品にも反映されている彼女のバックグラウンドの重要性を感じ、可愛いだけにとどまることのない作品群を読み解くうえでの必要な要素だとも思えた。
だが、勿論作品の意図を読み解くことも、感じるままに受け取ることも、これもまた鑑賞者の選択の自由であることに違いない。
そのことを前提として、気持ちを委ねることのできる素直で愛らしい空間に、是非とも訪れていただきたい。会期2/12まで。

ancco【Baby.zip】
会期:1月21日(土)〜2月12日(日)
会場:CALM & PUNK GALLERY
住所:〒106-0031
東京都港区西麻布1-15-15 浅井ビル1F
開廊時間:13:00 – 19:00
休廊日:日、月、火

ancco|(あんこ)
酪農家の実家で生まれ、東京を拠点に活動するアーティスト。
UNDERCOVER、GAP、水原希子のオリジナルブランド「OK」など、様々なブランドで作品を発表している。加えてカナダのカルチャー誌『Total Pet Vol.1』(Editorial Magazine)や上海の出版社SAME PAPERとのコラボレーションなど、国境を越えた活動を展開している。

文・写真 / 木村星来

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