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神童

村の外れに神童が住んでいる。
どこから来たかわからない。
姿を見た者はいない。
見ると、目が潰れるという。
こわい。
でも、こわいから見たい。
みんな、そう言っている。

女だ。
男だ。
狐だ。
目が3つあったぞ。
蛇の皮をなめていたぞ。

みんな、いうことが全部ちがう。
それで、誰もちゃんと見ていない。
と、みんなが分かった。

神童は、お告げを告げる。
でも、言葉じゃない。
歌だ。
なんだか出鱈目な歌を、ときどき歌うのだ。

 おお、神童が歌っているぞ。

ふしぎなことに、神童の歌は、
どこにいても聞こえるのだ。

 ありゃ、イネの育ちのことじゃ。
 いんや、イネでも隣ムラのイネのことじゃ。
 いいんや、水の害のお告げじゃ。
 いやいやいや、イナゴがくるんじゃ。

村人たちは、多数決で神童のお告げの内容を決めた。
だから、いつでもそれは、外れたことが無かった。

あるとき、ふと誰かが言った。
あの神童で、いいのかのう。

みんなは、びっくりした。
それからみんなが神童のことを、
まいにち考えるようになった。

やがて多数決で、あの神童は、
いらないということになった。
そこで、新しい神童を、みんなで作ることになった。

新しい神童が決まった。
その子は、草を刈る鎌を渡された。
そして、村の外れへひとり歩いて行った。

神童の歌は、いまも時々聞こえる。
が、もはや、前の歌には及ばない。
みんなは、こっそり舌打ちした。

やがて神童のことを口にする者は、
誰もいなくなった。

そして歌も、聞こえなくなった。

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