075 Main: ぞっとした話。
第75回のメインテーマは、「ぞっとした話。」でした。
ということで、まず「ぞっとする」ってなんなんだろう、というところからおしゃべりをスタートしました。
「ぞっとする」には、未知の部分がなくてはならず、その未知の部分を想像したときに「ぞっとするのではないか」と。
逆に言うと、どんなに恐ろしい状況であっても、詳細がばっちりはっきりわかっているときには、ぞっとする余地はない、ということになります。
本編のなかで「知らない悪魔より知ってる悪魔のほうがまし」という英語の言い回し(Better the devil you know)についてちらりと触れましたが、私がこの格言を初めて知ったのは、現在80代の人生の大先輩である女性の、かなり昔の恋の話を聞いているときでした。
当時の彼女は、英国の上流階級の夫との結婚生活に行き詰まっていました。彼は、妻に母親のような役割を求め、立場的に外で働くことも許さなかった。贅沢三昧の生活を与えてはくれたけれど、彼女の心は満たされなかったと言います。そんなときに出会った、夫とは真逆の男性に、彼女は激しく惹かれてしまいます。彼にも別居中の妻子があり、ふたりはそれぞれに逃げ場をさがしていたのかもしれません。
彼女の夫は、新しい恋人の存在を容認していました。それどころか、歓迎している向きさえあったそうです。夫婦揃って外で楽しく遊んで、でも離婚はせずに結婚生活は続けていこう、そんなふうに提案されました。
でも、彼女にとっては遊びの恋では済まなかった。だから家を出て別居をしながら、何年間もかけて離婚の説得を続けました。そのときに、彼女が懇意にしていたユダヤ人のテイラーから言われたのが、この言葉だったそうです。
Better the devil you know.
贅沢な生活をさせてくれて、恋人との関係も容認している夫。それなのになぜ離婚する必要があるのか、離婚なんかしなくたって、楽しく暮らしていけるじゃないか。なにも知ってる悪魔を捨てて、知らない悪魔のほうに行く必要はないじゃないか、ということだったのですね。
結論から言うと、彼女は離婚したものの、この知らない悪魔も実は相当な食わせ物で、関係は長くは続きませんでした。
まぁ、知ってる悪魔も、知らん悪魔も、悪魔と名のつくモノに碌なことはない、ということでしょうか。
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