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[Column] 踊る共通テスト (前編)

~記述式回答の無茶~

混迷の大学入試

2021年6月22日、大学入学共通テストへの導入が検討されていた「国語・数学の記述式問題」と「英語の民間試験の活用」が、2つとも導入断念という結論に至ったと報道され、2022年1月の試験はもとより、この先の試験での導入も、実現可能性はきわめて低くなった。

[筆者注]
民間試験とは英検やTOEIC、TOEFLといった、独立行政法人である「大学入試センター」以外の公益法人や非営利団体などが制作・運営する検定試験です。

もともとは2020年1月、大学入学共通テストが初実施されるのと同時に、これら「記述式」と「英語民間試験」も鳴り物入りで導入される運びとなっていたが、採点の公平性、地域・経済格差などの問題点が次々に指摘されるにいたり、導入を2024年度以降に検討しなおすことになった。それが今回の報道で、2024年度以降の導入も含めて完全に白紙となってしまったわけである。

ちなみに、筆者自身はセンター試験にリスニングが導入される前年度の受験生であったために、新形式による混乱を被らずに済んだのだが、いま現在進行形で教育の現場にいる者として、これら混迷をきわめる現状は正直な話、迷惑極まるところである。


“記述式”がはらむ問題点

「記述式問題」に関しては、導入に対して懐疑的な見方が当初から非常に強かった。

そもそも、センター試験のときからそうだが、受験生は大学に出願する時点においては、自らの正確な得点を知らない。結果が判明するのは春以降の話である。ゆえに、最終的な志望校の選択において、頼りになるのは「自己採点」の結果だけである。

センター試験はすべてマークシート方式での回答となっていたので、自己採点の結果と実際の結果とに大きな差が発生する可能性というのはそれほど高くなかった。なおかつコンピューターによる採点であるために、採点者ごとに差が生じるということがない。これは、試験の公平性という点において非常に意味のあることである。

しかし、記述式となるとそうはいかない。とくに国語は、採点者の任意によるところが非常に大きくなる。

中学生の高校入試における作文課題であれば、まずもって文字数がどんなに多くても400字(香川県は250字程度が定番)であることと、作文用紙の使い方や設問に書かれているルール、問われていることに対して何らかの答えが明示されているかなど、最低限の要素が含まれてさえいれば、得点できるようになっているのだが、ことは大学入試である。

設問に対してどれだけ的確に答えられているか、論理展開の明確さ、矛盾の有無、また表現力など、細かく採点しようと思ったらキリがなくなる。となると、自分自身がどれくらいの点を獲得できているか、予想がつかないのである。それに加えて、文中の誤字脱字も減点対象となるため、自分でも予想しえないところで点差が生じる可能性もある。獲得点数の予想に関しては、むしろこちらの方が不確定要素として問題かもしれない。

記述式を導入したい側の気持ちも分からないわけではない。しかし、50万人以上が一度に受ける統一試験で、複数人(それもおそらく数千人規模)の採点者の感覚を統一すること自体、非現実的であるし、今後、技術の進歩でAIに採点を任せることができるようになるとしても、そんなことはこの先10年スパンでの話なのである。

後編へつづく
「英語を英検で代用するのはもっと無茶」

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