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避けては通れないお金の問題

 有料でもいいので小説を読んでもらえませんか、という有難くも畏れ多いオファーをここ数日で何度かいただいたのですが、私なりのスタンスを書いておこうと思います。

 結論から申し上げると、現状、有料での感想・添削・校正などのご依頼を受けつける予定はありません。悪しからずご了承ください。

 理由はいくつかあります。

 まずは本業の仕事柄、就業時間が不規則で、多忙になるとnoteを開く暇もないほど仕事にかかりきりになるため、万が一、応募が溜まってきた場合に、返信期日を守れないなどご迷惑をおかけしてしまいかねないというのがひとつ。

 次に、私は著者の先生方からお預かりした原稿を読んで編集するという経験と技能を、いわば出版社に売ることで生計を立てている身です。別の個人の方からご依頼を受けて添削し、アドバイスをするなどしてお金をいただくこと、そして、それがいずれ他社を利するかもしれないことは、仁義にもとると考えます。

 また、私自身、小説のレビューはあくまで無償で、趣味の範囲で書いているものです。
 お金をいただいてレビューやご助言をするとなると、どうしてもお互いにビジネスライクになってしまいます。レビューをする側は、相応の価値ある文章を書かねばならないと気負ってしまいますし、ときには正直な本音を書けないかもしれません。レビューをされる側も、お金を払っている以上、相応のレスポンスが返ってくることをあらかじめ期待しますし、実際に出来上がりを見て満足することもあれば、失望することもあるでしょう。
 それよりは、気まぐれで偶然に見つけてきた面白い短編小説やショートショートをご紹介して、感想を好き勝手に書くほうを好みます。あくまで面白いものを読ませていただいたというお礼の意味を込めた感想であり、面白いものを微力ながら広めようという媒介であり、強いて対価をいただこうとは考えていません。
 いきなりレビューされた側は驚かれるでしょうが、その不意打ちこそが面白いでしょうし、満足することも失望することも、無償ですから当然、起こりうるかと思います。失望されてしまったとしたら申し訳ありません、Twitterで巻き込みリプを喰らったとでも考えていただくほかありません。もちろん失望されないように最大限、頑張って書いているつもりではありますが……。

 そしてもうひとつ、避けては通れない単価の問題もあります。
 紙の出版における編集・添削の単価がどれくらいなのか、各社それぞれの事情もあるでしょうし軽々には書けませんが、逆にネットを介した文章の編集・添削の適正単価というものを、残念ながら私は知りません。
 ただ、いわゆるクラウドソーシングなどでは、かなり単価が下がっているという話を耳にします。

 判りやすい例でいえば、ウェブライティングの文字単価でしょうか。
 紙の出版では、やはり各社それぞれ事情は異なりますが、たとえば外部サイトの「噂話」をそのまま引用するなら、

原稿料とは文芸誌や雑誌の連載などに対して支払われる報酬のことで、一般的に原稿用紙一枚(400字)が単位となっています。
1枚あたりでおおむね2000円位から5000円くらいが平均的ですが、作家の実力と人気次第で契約金額は決められます。

 と書いてあります。これに加え、1冊の本にまとまった出版時の印税が、単価と部数に応じて支払われるわけです。

 つまり、原稿料だけを考えても、文字単価は最低でも5円/1文字くらいはあるわけです。それでも、いまや駆け出しから作家専業では「食えない」といわれています。新人賞の受賞者に対して担当編集者の発する第一声が「いまの仕事を辞めないでください」だというのは笑えない話で、賞の運営に関わった経験はありませんが、おそらくは真実なのでしょう。

 ところがウェブライティングの単価はどうでしょう。試しにクラウドソーシングのページを覗いてみると、文字単価は1円以下、末端価格は0.1円というのもざらに見かけます。1000文字を書いて100円です。好きなことを書いて小遣い稼ぎにするだけならそれでもいいですが、いったいそれで、どうやって食っていけばいいのでしょう。検索してみたところ、中級ライターでも1文字1円ということですから、少なくとも紙媒体とは雲泥の差、買い叩かれているといっていいと思います。

 いわばこの「ネット価格」に迎合してしまうと、私自身の懐はいっとき潤うかもしれませんが、長い目で見れば、同様のクオリティーで仕事をしたいと願う人たちの単価を抑えつける前例づくりに知らず加担してしまうことになりかねません。紙媒体を基準としたウェブ編集・添削の適切な価格設定ができるのかどうか、私にはまだ自信がないのです。

 だから、noteのバッジ収集欄にある「仕事依頼記事」だけは、いまだに空欄になっています。とても面白い試みだなと思いつつ、私自身は、あくまで仕事を離れて趣味として楽しんでいたいだけなのです。

 原稿を読んでほしいという方のご要望すべてにお応えできない代わりに……というわけではありませんが、現時点の私が持てる知識と経験は、すべて1本のnoteにまとめてあります。

 この記事にしたって、書いた動機は単なる趣味であり、自分自身の勉強のためでしかありません。文字単価も、執筆の労力にかかる対価も、ほとんど度外視しています。
 noteの表示によれば有料部分は96,450文字となっていますから、54部以上売り上げてようやく、売上ベースで文字単価1円を超えることになります。さらに売上から手数料と振込手数料が14.5%〜23.5%引かれるわけですから(計算合っているでしょうか)、単価1円超えは遠い道のり。匿名個人の無名アカウントでは、正直に言って、そこまで売れるわけもありません。その意味では、今後「小説創作論」を書きたい人の価格基準を抑えつける悪しき前例を作ってしまったわけですが、かといって単価数万円で売る度胸も売れる見込みもないし、単純に単行本1冊の分量に対して、書店で見かける常識的な価格として1,800円と設定しました。通常、作家の印税は定価の10%といわれていますから、書き下ろしの印税を実売部数ぶんだけ貰うと考えたら、noteはとても良心的だといえます。制作コストや在庫リスクもありませんし。ありがとうnoteさん。

 それに、申告やらなにやらの関係で、雑所得が年間20万円を超えてしまうと、それはそれでいろいろと面倒なので、とらぬ狸のなんとやらというやつで、あまり売れすぎるのも困ってしまいます。まぁ、ちょうどパソコンのOSのサポートが切れたことだし(この文章はスマートフォンで打っています)、経費としてパソコンを新調する手もありますが、ちょっと危なくなったら有料記事の販売自体を一時中断する可能性すらあります。

 とはいえ、誤解していただきたくないのですが、ウェブライティングやウェブ編集すべてに疑義を呈しているというわけではありません。最近では、こんなウェブサービスがあるのだとnoteを拝読して知りました。

 読んでもらいたい人、読んで編集・添削したい人、両者のマッチングが双方の望む形で叶うとしたら、それは素敵なことですよね。

 原稿について一歩踏み込んで改良の提案をする編集・添削となると、適正な単価がかなり高くなってしまうと思われますが、たとえば誤字脱字などを拾う「素読み校正」なら、紙の現場でも一般的には銭単位で文字単価を計算しますから、ネットで請け負う余地はあるかもしれません。

 良くも悪くも多くのものが無料で手に入る時代。ネットを介したやり取りの対価の多寡は、根深くて難しい問題ですね。

サポートは本当に励みになります。ありがとうございます。 noteでの感想執筆活動に役立てたいと思います。