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連載 関東大震災映像デジタルアーカイブ・こぼれ話 第4回―関東大震災の映像記録という迷宮

 関東大震災映像デジタルアーカイブにコラム「目の記録、聞こえない声―関東大震災の映像記録によせて」を寄稿しました。
https://note.com/shitaya_office/n/n364458d8b4fc
 
 5回の連載で、コラムに書き切れなかった、「こぼれ話」を紹介します。
 第4回は「関東大震災の映像記録という迷宮」
 
 コラムの依頼を受けて、関東大震災の映像記録を初めてまとめて見たのですが、一体、そこに何が映っているのか、特定するのがとても難しい記録だと思いました。
 まず、著作権の概念がほぼ「ない」こと。
 そのため、出典を記すというカルチャーもなく、「いつ」「どこで」「誰が」撮ったのかを示すベースとなる情報がありません。どれがどれの引用なのかも分からず、別の会社の作品に、同じシーンが何度も登場するので、出口のない迷宮のように、イメージだけが永遠にループし続けます。
 
 もう一つ、ここでいう「アーカイブ」の単位は、「編集物」としての作品であること。記録という意味で、最も基本となるのは、撮影したときのフィルムだと思いますが、その「一次資料」としての撮影フィルムは失われていて、二次的に編集された作品フィルムだけが、残されています。
 台本でもないかぎり、撮影した映像の何を使って、何を捨てたのかも分かりません。
 
 写真や映像は、現実の「像」を機械的に「写/映した」ものなので、それ自体が当時を伝える「客観的な資料」のように思われているかもしれませんが、実は記録の方法が「客観的」であることと、それが「資料」として機能するかは別次元の問題だということです。
 写真や映像を「アップする」こと自体は手軽にできるので、一見、「膨大な資料」が登場しているように見えるかもしれません。しかし、映像が「資料」として機能するには、同時代の背景に落とし込む「文脈情報」の補佐が必要で、そこまで情報が揃っているとなると、本数は非常にかぎられてしまいます。
 
 関東大震災映像デジタルアーカイブのすばらしいところは、「作品詳細」のページに、この「文脈を埋める」情報が、ずらっと揃っていることです。「作品詳細」は、まちがいなく、このアーカイブの目玉です。
 これ自体が面白いので、映像を見る方は、ぜひ一読をすすめます。
 
 上っている20本の作品のうち、東京シネマ商会が撮影した「関東大震大火実況」「大正十二年九月一日 帝都大震災大火災 大惨状」と、日活カメラマンが撮影した「関東大震災実況」だけは、カメラマンなどの撮影記録が残っています。
 
「関東大震大火実況」
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/movies/m01.html
「大正十二年九月一日 帝都大震災大火災 大惨状」
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/movies/m08.html
「関東大震災実況」
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/movies/m05.html
 
 そこで、映像初心者のわたしは、補足資料の一番充実した「関東大震大火実況」を選び、そのうち、撮影の「日時」と「場所」を特定できた「神田区今川小路界隈」と「本所区枕橋界隈」にしぼって、コメントを加え、コラムを作ったのでした。
 
「火災炎上中の神田方面を望む」(神田区今川小路界隈)
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/clips/m01_005.html
「吾妻橋から大日本麦酒工場の火災を見る」(本所区枕橋界隈)
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/clips/m01_008.html
 
  このアーカイブを育てるには、多くのひとが映像を見て、色々な角度からコメントを付け、「文脈を埋める」情報を、充実させていくのがよいでしょう。
 「関東大震災の映像記録」という迷宮へ、ようこそ。
 
コラム「目の記録、聞こえない声―関東大震災の映像記録によせて」
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/columns/c10.html
関東大震災映像デジタルアーカイブ
https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/

『関東大震大火実況』の説明台本梗概および内容

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