複式簿記を楽しく学べる いい本があります

複式簿記こそは資本主義の根幹に鎮座する、仕組み、ツールです。すっかり現代の私たちはこのことを忘れています。古くはアダム・スミス、マックス・ウェーバー、時代の近いところでは、カール・マルクス、ヨーゼフ・シュンペーターがこのことを強調しています。

しかも17世紀の科学革命の前にまず数量化革命があったとする、アルフレッド・W・クロスビーは主著『数量化革命』の中で,1494 年にイタリアの数学者ルカ・パチョーリが複式簿記をまとめ、『スムマ』として刊行したことが,西欧の世界史への巨大な台頭を促した、のだとさえ説明しているのです。

この複式簿記を数式はほとんど使わず、歴史的な挿話を中心に解説した良書が『会計の世界史』です。

ところで今年は、レオナルド・ダビンチ没後500年のアニバーサリーイヤー。そこでNHKが「ダビンチ・ミステリー」の特集番組を放映しています。
(NHKスペシャル | ダビンチ・ミステリー第1集 幻の名画を探せ~最新科学で真実に迫る~ https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20191110)

実はダビンチと会計の父と言われるルカ・パチョーリとの間に親交があった。ダビンチが簿記に関する記述も含まれる本を読んでいたのです。そういう話も織り交ぜながら読み進められるのが、『会計の世界史』。お薦めです。

「近代会計学の父」、ルカ・パチョーリ

1494年11月20日、イタリアはヴェネチアで『スムマ』と呼ばれる数学書が刊行されました。執筆者はイタリアの数学者ルカ・パチョーリ。

この本の中で初めて複式簿記が体系だった形でまとめられました。簿記の体系は少しづつ工夫、精緻化されてゆきましたが、それをはじめてまとめた本、そのタイトル、フルネームは『算術・幾何・比及び比例全書』。原題は"Summade Arithmetica, Geometria, Proportioniet Proportionalita"で、集大成という意味の最初の単語から、「スムマ」と呼びならわされています。全体は600ページに及ぶ大著で高価でもあったのですが、ラテン語ではなく、イタリア語で書かれていたことも手伝って、当時のロングセラー本となったのでした。

実は簿記論は600ページの中の27ぺージだけ、約2万4千文字の著述。第1部第9編に簿記論として立項されており、ルネサンス当時のヴェネツィア式簿記(複式簿記)が解説されていました。財産目録の作成、日記帳、仕訳帳、あらゆる元帳、勘定の取り扱い、さらには決算など簿記にかかわる知識と理論が詳細に、たとえ話なども織り交ぜながら展開されていました。

その簿記論の部分が、各国語に翻訳されて普及し、複式簿記の知識がヨーロッパ中に広まりました。グーテンベルグが活版印刷を実用化したのが1450年代。といってもそれはドイツの都市マインツでの出来事。最初のうちは本の印刷注文などはなく、ラテン語の文法書や聖書などを細々と印刷していました(「卵と鶏」論で本を読む習慣がまだなかった)。他方イタリア北部はこのころ商業が隆盛となり、学校も発達し、ある程度豊かな商人なら誰でも文字を読むことができました。商売に関する本なら売れると、印刷業の将来性、成長性に目を付けたのがヴェネツィア商人たちで、『スムマ』は当時西洋の一大出版業地域となっていたヴェネチアで刊行されたのです。

レオナルド・ダ・ヴィンチも読んでいた『スムマ』

このとき、ヴェネチアにはレオナルド・ダ・ヴィンチがいました。

彼のノートのTo Doリストに「ルカ先生から平方根を習うこと」と書いてあったことがわかっています。

レオナルド・ダ・ヴィンチも『スムマ』を読んでいたのです。そして『最簿の晩餐』を描くのに『スムマ』、『算術・幾何・比及び比例全書』の著者であるルカ・パチョーリに教えを請いたいと考えたのでした。実際ふたりはミラノのスフォルツァ家の食客となり、幾何学的立体図形に関する研究を行いました。もちろん、ルカ先生からの遠近法などの教示により、『最後の晩餐』は1498年めでたく完成しました。

もっと知りたいと思う方は、下記ブログをご覧ください。面白いですよ。
複式簿記|11月20日は近代資本主義の濫觴の記念日 https://society-zero.com/chienotane/archives/8383


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