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『海のディギトゥス』from『エスペラント/Dolphins』

 

1

(私は生まれたばかりで、
(深い水がそのただ中に私を抱いていたが、
(山の頂上に私を置き去りにしたばかりのようだ。
(まるで海の女神アンフィトリテの波によって
(流砂の上に忘れられた一匹のイルカのように。
『ケンタウロス』モーリス・ド・ゲラン

一頭のイルカはコピペで
どこにでもぺたぺたと
神出鬼没に
出現可能。

海の女神アンフィトリテ、
ひと波頂戴!
と瞬く間に、
流砂の上にイルカ 登場。

来たのはいいけど、どうやって帰る?
いやいや心配ご無用、
さすがに砂の上は勘弁でしょ。
じゃあ、
覆された宝石さん家あたりに
ぺたりっ。

2

(カルモヂインの田舎は大理石の産地で
(其処で私は夏をすごしたことがあった。
(ヒバリもゐないし 蛇も出ない。
(ただ青いスモヽの藪から太陽が出て
(またスモヽの藪へ沈む。
(少年は小川でドルフィンを捉へて笑つた。

『太陽』西脇順三郎

   

小川まで入り込んできて、
あまりにも無思慮すぎるイルカ さん、
人間より賢いとみなされながら
知性を疑われてばかりのイルカ さん、

ひょっとして大理石が柔らかいのは
イルカ さんたちの変化した姿だからですか、
あの肌理の流れは流水力学の余波なのですか、
それにしても、少年の捉えたイルカ さんは
「伊東に行くならハトヤ」のCMの
ぴちぴちハマチにしか
思えないのが困りものです。

で、少年に捕獲されたイルカ は
そのあとどうなるのでしょうか、
現場でイルカに凸撃インタビューしてみました。
-で、これからどうします。
どうするも、こうするも、
人間の子供というものは
無垢にして残虐な天使の獣、
三十六計逃げるにしかず。
-で、どこへ?
存在と非存在の隙間を縫って泳ぐ
海のディギトゥスとして
量子の波を測量することに努めてみたい。
-ということは?

    

3

(いるかいるか
(いないかいるか
(いないいないいるか
(いつならいるか
(よるならいるか
(またきてみるか
『いるか』谷川俊太郎 

隠れたがるものイルカ、
それでいて

迂闊にも捕らえられてしまうものイルカ 、
それでいて

身を翻して消え去るものイルカ、
それでいて

波の揺れだけを残していくイルカ 、
それでいて

そこにいてと願われるものイルカ
それでいて

空に似てと仰がれるものイルカ
それでいて

大理石から切り出されてしまう生イルカ
イルカ 、見つけた!

残念、
もうそれは僕じゃないよ、

スモモの種に宿った粒々の太陽さ、
捕まえてみな、流砂-salut-salut!

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