極楽大脱走! ~ネオ・リヴァイヴァーズ~

それは、生前見たこともないような大河だった。色彩はなく、底は知れず、速い流れと緩やかな流れが物理法則を無視して交錯し、茫として得体が知れない。
それでも来るときはすんなりと渡ってきたそこを、僕は強奪したイカダに乗って櫂を必死に漕いでいた。
「先輩、こんなんで本当にうまくいくんですか!?」
隣で同じく漕ぎまくっているレイイチ先輩に大声で問う。
「うまくいくに決まってるだろう、なぜなら今回は俺とハジメの二人で成功率は百倍!脱走百連敗中の経験者が語るんだから間違いはない!本当に百回かはもう数えてないがな、ガハハハハ」
あ、だめだこりゃと思ったが、僕にもあまり選択肢はなかった。このまま恙なく成仏するには、少しばかり未練がありすぎた。かあちゃんは元気だろうか。引き受けていた仕事はどうなっただろう。
景気づけるように先輩が高らかに歌い出す。僕たち四人のバンド『リヴァイヴァーズ』のデビュー曲、《死んでも俺とお前は家に帰る》の一節だった。ついつい櫂を漕ぐリズムを合わせる。
川岸で小石を運んでいた子供たちが興味深そうにこちらを見ている。うん、こんな場所でも聴衆がいてくれるのは素直に嬉しい。そしていささか目立ちすぎた。
「そこの不法イカダ!止まりなさい!」
警告の声と弾丸がほぼ同時に空から降ってきた。周囲に水しぶきが次々と上がる。
驚いて見上げると、物騒な二丁拳銃を構えた白い翼の天使が浮かんでいた。天使だから性別は断言できないと思うがなかなかの別嬪さんに見えた。
「よう!お勤め毎度ご苦労さん」
先輩は片手を上げて気安く声をかける。
「毎度、じゃありません!貴方は毎度毎度何をやっているんですか!いったい何が不満なのです!」
「極楽なんかじゃ俺たちの歩みは止められねえ。みんなで安らかに眠っているヒマなんぞあったら俺は新たなステージに立つ!」
先輩が天使に向かってビシッと親指を立てた。
天使がこめかみにビキッと青筋を立てた。
【続く】

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