廃世界線上のフーガ

走る。走る。瓦礫の隙間を縫ってひたすら走る。振り向けば群なして追ってくる影、影、影。首の無い闇の塊めいた何か。
俺は通路の陰に飛び込むとアサルトライフル掃射で牽制する。奴らの勢いが一瞬止まるが、きりがないのは分かり切っている。残弾も危うい。即座にまた駆け出す。
天井の灯りがまばらに明滅する。そうだ、ここはまだ電気系統が生きている。生き残りがいるかもしれない、いや贅沢は言わない、武器か食料だけでもあれば。
不意に、通路の真ん中に壁が現れた。いや違う、床から染み出すように黒い手が伸びて、続いて這い上がるように一際巨大な胴体が現れて。
「この、首無しの死神どもが!」
戻れば挟み撃ちで死ぬ。意を決して引き金を引きながらスプリント。
ろくに手応えがなかったが、相手の反応も鈍かったことが幸いした。すぐ脇を文字通り脱兎の如く駆け抜ける。
これは、教官の言っていた半実体状態か。奴らは壁も天井もすり抜けて現れるが、そこから我々を殺せるようになるまで若干のタイムラグがあると。その代わりこちらの攻撃も効かないと。
背後を振り返る。巨人のごとき死神はようやく全身を現し、太く長い腕を壁や天井に叩きつけながら大きく振り上げて。
俺は躊躇せず虎の子のグレネードを投げつけ、一目散に走り出した。



何とか敵は撒けたようで、俺はようやく一息つくと、隠れるように先に進んだ。
ようやく見つけた下り階段は瓦礫で埋まっていたため、床に穿たれた穴からロープで降りると、様子が一変する。随分と広い空間だった。横だけでなく縦方向にも。
「ここは…格納庫か何かか…?」
ここの照明は死んでいるようだったので、ロープに掴まったままメット付属のライトを点け、周囲を仰ぐ。
目に入ったのは威容だった。流線型の大型機構。フォルムからすると、戦闘機か何かか?
近くで確認したいが、ロープの長さが地面まで足りなかった。飛び降りれば戻れなくなる。どうするか逡巡していると。
【続く】

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