冬来たりなば

 背から剣が引き抜かれる。男の肩に掛けていた指から力が抜け、女はそのまま崩れ落ち、やがて、絶命した。勝利した男に喜びの色は無い。
 女の下に少年が駆け寄る。女は少年の姉であり、戦士であった。
 祖父が破れ、両親が破れ、そして姉までも。
 少年は男を睨む。その瞳は涙ぐんでいたが、それを見た男は安堵していた。
 悲しみを堪えている、だがその奥底には男への確実な憎悪を読み取れたからだ。
 男は持っていた剣を放ると、それは弧を描き、少年の足元に突き刺さった。
「いつか、殺しに来い」
 そう言い残すと男は背を向け、立ち去った。振り返ることは無かった。足取りは重く、酷く疲れている様だった。
 少年は剣に手を掛け、引き抜く。男の背を睨み続ける。
 寒風吹きすさび、やがて雪が混じりそのうち全ては白魔に覆われた。
 男の姿はとうに見えない。

 冬来たりなば。
 春は。
 ……春はただひたすらに遠いのだった。

【続く】

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