ウルトラ・ディスタンス

 直射日光が苛む。ペダルから足を降ろし、サングラスを外し周囲を見渡す。GPSは健在だ。マップも「まだ」正しく表示されている。トップとの差はどれ位だ。5000キロ。運営からはGPS情報だけが報告されてくる。つまり進路の詳細は行ってみなければ判らない。
 目前には砂漠と森林が混ざり合う不可解な光景が広がっている。午前三時。夜などというものがこの地から失われてどれ程経つだろうか。遠くに見えるのは崩壊し植物に覆われた巨大建築物か。
 所々ガラス状に融解した岩肌が見える。私は計器を取り出し計測する。……問題無し。
 私は参加登録した車両、ロードバイク…グラベルも走破できる…を再び走らせ始めた。
 現在先頭を行くであろうチームは走破性を最重視したラリーカーの一団だ。だが今この世界で「燃料」は貴重品だ。むしろ内燃機関という概念自体が失われつつある。つまり彼らが未だ走り続けているのは驚異的とも言えた。私も自転車とはいえ電動の補助、ハブの回転とソーラーの発電による継続性を向上させたモデルでもある。
 
 この旅……このレースはこうしたエネルギーなどの残滓を各参加者が探す旅でもある。化石燃料……水素……水素へ変換できる水……ガス……いずれも貴重となってしまった。無い訳ではない。だが容易くは入手できない。かろうじて「太陽」だけは残った。
 だがその太陽も今は熱で私を苦しめるばかりだ。時間の感覚も狂う。どこか影がある場所を見つけて小休止、幾許かの睡眠をとらなければならない。
 総走行距離20000キロ……予定。地球の裏側、とも言い切れない。探索と同時に限界への挑戦、へも勿論ある。
 実のところ、皆が同じルートを辿る訳ではない。乱暴に言えば終着点が決まっているだけだ。登録した車両を変えない事。そして向かうは南極大陸「とされていた場所」である。
 私はアシスト機能の出力を上げ、ケイデンスを上げるよう踏み始めた。

【続く】

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