『琉球切手を旅する』(与那原 恵 著)

書店に行くまで全く知らない本でしたが、タイトルと装幀に引かれて先日購入しました。

琉球切手は、戦後、沖縄がアメリカの統治下にあった時代に発行された切手です。
私は数年前から、年に1、2度、とある切手屋さんに行き、通信用に未使用の切手を何枚か買うのがちょっとした楽しみです。
ある時、お店の方よりおまけの切手を一枚いただき、それがピンクが美しい年賀用の琉球切手でした。

著者はご両親、祖父母の手紙からこの切手に惹かれ、沖縄史が語られていきます。
切手から見える沖縄は、鮮明で、しかし時に戦争や基地のことが生々しく伝わってきました。
本書のあとがきでも触れられていますが、那覇市歴史博物館にデジタルミュージアムがあり、本編で触れられる、戦後間もない頃米軍の酸素ボンベを使って作られたポストについても見ることができました。デジタルミュージアムで「ポスト」と検索すると写真が出てきます。思った以上に小さく、しかし、戦争で離散した人達もこうしてやり取りしたのだと思いました。届かなかった手紙もどれだけあったろうかと感じます。

また、切手デザインを巡る沖縄美術史としても興味深く、芸術の広がりや、文化財保護、占領下の切手を描く芸術家の葛藤なども印象深かったです。著者がお書きになった、鎌倉芳太郎という沖縄美術に関わった研究者の評伝も読んでみたいと思いました。

僭越なことを一つだけ申し上げるならば、様々な切手が文中で紹介される一方、実際の切手の写真が添えられているものは少なく、各章の冒頭に掲載される切手もモノクロなので、琉球切手の鮮やかさがわかるよう、例えば本の冒頭に口絵として、主要な琉球切手のカラー印刷が掲載されていても良かったのかもしれないと思いました。
もちろん、予算の都合があってのことかもしれません。また、ここではどんな切手か読者の想像に任せ、興味を持った人は本やインターネットで調べて見るという楽しさもあるとは思います。私自身、数年前に購入した切手カタログを見つつ、読み進めました。


ただ、琉球切手、そして戦後沖縄史の導入の一冊としてとても良い本だと感じましたので、いつか文庫化することなどあれば、増補していただけたらなどと勝手に期待いたします。