『土方のスマホ』の20年後

2022年のお正月に見て一番面白かったのが、NHKで一挙再放送していた『土方のスマホ』でした。

新撰組の土方歳三がいた時代にもしスマホがあったらという「幕末SF時代劇」で、YouTubeではシリーズ1作目の『光秀のスマホ』と合わせて視聴でき、1時間近くの全編を一気に見ることも、細切れで見ることもできます。

内容はふざけているように見えて、実は時代考証をしっかりやっているとのことで、制作側のすごいこだわりを感じます。

歴史を軽く見ている、パロディーにしすぎているという批判もはるかもしれません。ただ、新撰組がInstagram風に池田屋事件を実況し、討幕派の殺害をショーにし、そこに視聴者が無邪気にコメントしていくシーンなどは、ネットで煽り、煽られる今の自分たちへの皮肉でもあるように感じました。2021年(初回放送時)の今を、幕末を使って表現した作品ではないかと思います

今を描いたこの作品は、今だからこそスマホとアプリなど元ネタを(一定以上のスマホユーザーであれば)ほぼ違和感なく理解して見ることができます。

ただ、スマホもアプリも、これから5年後、10年後、そして20年後には全く別の形式になるか、あるいはそもそも存在すらしていなくてもおかしくありません。そんな時に、未来に生まれた人たちがこの作品を見てどう思うだろうかという興味が湧きます。幕末と2020年代初頭が混ざった作品を2030年、2040年から見たときに、どのような屈折や発見があるのだろうかと想像します。個人的には、幕末以上に2020年代初頭のスマホ文化を学ぶ良い教材になるのではと感じます。

同時に、私を含めて今この作品を見た視聴者が、未来で見直した時にどのような感想を抱くだろうかという関心もあります。(少なくとも、子供や孫世代に「この頃はLINE(Twitter、Instagram...)というものがあってさ・・・」などと見ながらとめどなく言い出したら、結局老いを感じるのみだとは思います。)

以前に伊集院光さんがラジオで言っていたことを勝手に解釈して言えば、数年後程度では『土方のスマホ』を見直しても中途半端に古くてつまらない気がしますが、長期間(10年、20年)の時の経過の中で作品が醸成(熟成)され、そこで見直すとまた味わい深い作品になるのではと感じます。

NHKの方にはYouTubeやNHKアーカイブスで保存し続けていただきたいと同時に、20年後くらいに突発的に再放送してほしいと思いますし、それまで私の脳裏にもこの作品が残ってくれていればと思います。