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虚構が現実を勇気付ける。劇団おぼんろ「メル・リルルの花火」

劇団おぼんろ公演初めて観ました!


昨年別企画で初めて出会った末原拓馬さん率いる劇団。
かならず舞台観に行くねと約束していたのですが、
もちろんこのご時世、劇場に足を運ぶことはかなわず。
でも、多くの劇団が公演を中止する中、早々に「上演形態変更」に踏み切ったことを聞いており、どうなるのかなー?と思ってました。

緊急事態宣言を受けてからは、劇団員すら集まれないという形態。
マルチアングル上演からノーアングル上演にさらに形を変え、しかも上演期間9日間をかけての続き物になってて、物語が完結するというしくみ。

実は知ったのが遅かったので、やば!!っとなって、ものすごく急いでアーカイブをおっかけ
公開制限時間ギリギリで、観終わりました(途中本編以外一部はしょりましたけど・・・)

今まで様々なライブ配信、無観客ライブといわれるものを、最後まで観終えることができなかった私。
初めての完走体験でした。

物語は、「物語の語り手が、語ることを通して体験する不思議な出来事」と、
「登場人物が体験するストーリー」と、「その背後の幽霊達のサイドストーリー」が3つ絡み合います。
語り手と登場人物は映像なしの音声のみ、サイドストーリーの幽霊達は、フィジカルなパフォーマーが演じているので映像で、さらにメイキング風景もドキュメンタリー風に、という1回の配信が三層構造で出来上がっている。
それが9日間続く、しかも、音声は録音じゃなくてライブ、それぞれの場所からオンラインで演技をする(よくある会議アプリみたいにかな?)という凝った作りです。ラジオドラマ風でありながら、その実、それは別々の場所でリアルタイムで行われている。
この全体像を理解するまでにちょっと時間がかかりましたけど、わかってくると地味にすごい。

動画配信でありながら、メインストーリーは延々と黒画面で音声のみ。
だけど、想像力に体を委ねると、だんだんと現実と物語の区別がつかなくなってくるような脚本のしかけ。
このしかけによって、家を出られない人たちをすごく遠くに連れて行こうとする、そんな情熱があちこちにちりばめられてる舞台でした。

実際、家で演劇見るって、ハードル高いです。
劇場に行くということは、ある意味自分をそこに拘束しにいくということ。
この拘束は、面倒だけど楽なんです、物語に入る以外の選択肢がないから。
自宅で舞台を見られるということは、洗濯しながらでも、お茶入れながらでも、メールの着信でいちいち現実に戻りながらでも、全ては観客に委ねられるので、その自由は、諸刃の剣。
いやー、自ら体験してみて、その難易度の高さに、いろいろな舞台配信を体験しては毎回撃沈していたのでした。
この作品は、本編はわずか15分ほどで、それが9日間14ステージに渡るということで、徐々に徐々に、舞台の世界に足を踏み入れられる感じ。

役者陣は芸達者だし、前説や後説で、観客を巻き込んでいこうとする姿勢は親切すぎるほど親切。
このご時世じゃなかったら、私は「ウエットすぎる!」って思ったと思うのですが、今は、このおせっかいなくらいのサービス精神にもちょっと救われる。
それに、物語に映像がないの本当によかった。

欲を言えば、どうしても既存のファンに向けたものになっている印象はぬぐえず、間口が少々狭い。
初心者には、役者の名前とキャラ知ってて当然的な進行は、「ああ、新しい人は入りにくいね」とどうしても思ってしまう。
あとは、現実に立ち返るドキュメンタリーは「目をあけてから」にしたかったな、という構成上の希望はある。
そこまで内情見せてくれなくても、そこまで直接的にメッセージ伝えてくれなくても、十分伝わってるよーと言いたい部分もある。
それでも、そんなことを忘れるくらいに、家でドキドキできる演劇として、新しい地平を見せてくれたことに感謝。
そして、おそらくこれを見たほとんどの人が、「これ劇場で観たくね?」と思える作りに感謝。
やっぱりライブ配信って、あえてマイナス1、マイナス2を勇気持ってできるかどうかが、本当に大事なんだなと思いました。

さらに、スタッフ陣にも感謝。
ぶっちゃけ一番泣けたのは、オープニング、まるで劇場で客電が落ちるその時を、自宅でそのまま体験できるような、「舞台の音響さん」のフェードアウトのプロの技でした。
あれは、現地で芝居を見続けている人には当たり前だけど、スタッフが魔法をかける瞬間。
あれだけで、劇場にいると錯覚させてくれる。

そしてね、無料配信全盛になっているこの状況で「お金を払える」ということは、とても観客の満足度を上げるということもわかりました。
自分で値段を決められる投げ銭公演であることも。
気に入らなかったらその金額は、意思表示。でも、応援したくなったらその金額もまた、意思表示なんですね。
観客が一番満足度を表現できる手段をきちんと用意してくださっていたことにも感謝なのでした。

「やっぱり生で舞台が観たい」
いろんな人にそう思ってほしいくせに、自分はそういう叶わぬ気持ちが高まってしまって情緒不安定になりたくないものだから、
舞台配信系は敬遠しているという、メンタル状況。
でも、誰かが命を削って挑戦したことは、生だろうがネットだろうがちゃんと伝わって、そのことが確実に誰かを勇気付けることができる。
それを実感することのできた、「ノーアングル上演」でした。

あ、ストーリーに関しては、必ず完全版での公演が実現することを祈って、感想はその時にとっておきます。