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鉄の同位体60の由来を探る

今、これを読んでいるのでメモを取ります。

サイトはSciTechDailyとかいう知らん所ですが、科学技術系の記事を出しているニュースサイトですね。

記者はHELMHOLTZ-ZENTRUM DRESDEN-ROSSENDORFとあるし、生物から宇宙科学、地質学、化学と色々と総合的にカバーしているし1998年からあるサイトということで真面目にやってそうですな。

この記事で扱われているウォールナー教授の論文についてはネイチャーダイジェストの日本語版を記事執筆中に見つけました。

皆さんはSciTechDaily無視でコチラだけ読めばOKです。

The Iron-60 Enigma: Decoding Cosmic Explosions on Earth

ではSciTechDailyの記事に戻ります。タイトルは「鉄の同位体60Feの謎:地球上の宇宙爆発を解読する」というものです。

ウォールナー教授 Helmholtz-Zentrum Dresden-Rossendorf (HZDR) は鉄の同位体60Feを海底のマントルからみつけたのですが、そのが半減期が260万年なのです。

天然の(Fe)は4種の同位体からなり、その存在比は、半減期3.1×1022年以上の54Feが5.845%、安定同位体の56Feが91.754%、57Feが2.119%、58Feが0.282%である。60Feは半減期が260万年の消滅放射性核種である。ただし、60Feは2009年まで半減期が150万年とされていた。

ウィキペディア

これは地球の年齢である46億年からすると短いので、太陽系誕生の時のガスやチリにあったものではないことになります。また、地球のコアの温度と圧力ではとても作れるような元素ではないので、地球の外から来たことになります。しかし、定説では、鉄60みたいな重い元素を作れる場所は中性子星の連星とか超新星爆発とかになります。でも超新星爆発とかが近場で起こった場合は生物絶滅イベントになりかねません。そんなことが実際にあったのでしょうか?

記事には

A nearby explosion has the potential to severely disrupt the Earth’s biosphere and cause a mass extinction similar to the asteroid impact 66 million years ago. The dinosaurs and many other animal species fell victim to that event. “If we consider the time period since the solar system’s formation, which spans billions of years, very close cosmic explosions cannot be ruled out,” Wallner emphasizes.

ウォールナー教授は「近場で超新星爆発があると6600万年前の恐竜の絶滅を引き起こしたような大きなインパクトがある。地球の年齢は数億年なので近場の超新星爆発のデブリが降った可能性は否定できないと。」と主張します。ま、まじか。。

Nevertheless, supernovae only occur in very heavy stars with more than eight to ten times the mass of our sun. Such stars are rare. One of the closest candidates of this size is the red supergiant Betelgeuse in the constellation of Orion, located at a safe distance of about 150 parsecs from our solar system.

しかし、超新星爆発は比較的大きな星でしか起こらない。例えばオリオン座のベテルギウスが150パーセクの距離にある。

じゃ、なぜそんな遠くの超新星爆発が太陽系に影響を与えることが可能なのか?超新星爆発でFe 60 が放出されたとしても太陽系に到達する時間が半減期に比べてながければ地表で検出できてる量を説明できるのか?

これが記事のタイトルにもなっているエニグマ(謎)なわけですね。

About half of these isotopes, called iron-60 for short, have turned into a stable nickel isotope after 2.6 million years. Therefore, all iron-60 that was present at the Earth’s formation some 4,500 million years ago has long since disappeared.

地球誕生46億年前にあった鉄60は半減期が260万年なのでもうすでに全て崩壊してニッケルになっているわけで、確かに割と最近にやってきた地球の外の超新星爆発のデブリでしか説明できないはずになります。Fe 60 も含め殆どの原子、同位体は超新星爆発で生成されるのです。

“Iron-60 is extremely rare on Earth because, by natural means, it is not produced in any significant amount. However, it is produced in large quantities just before a supernova takes place. If this isotope now turns up in sediments from the ocean floor or in material from the surface of the moon, it probably came from a supernova or another similar process in space that has taken place near Earth only a few million years ago,” Wallner summarizes.
「鉄60は地球上では極めて希少な物質である。しかし、超新星爆発の直前には大量に生成される。この同位体が海底の堆積物や月の表面の物質から発見されたのなら、それはおそらく、ほんの数百万年前に地球近傍で起こった超新星爆発か、あるいは宇宙で起こった同様のプロセスによってもたらされたものでしょう」とウォルナー氏は要約する。

ほんの数百万年前と言いますが、どのくらい前なんでしょうか。恐竜絶滅が6600万年前で、人類誕生が40万年前。その間になりますね。

人類の進化の過程

約40万年前:ネアンデルタール人(現生人類の祖先と分岐したとみられる)、ヨーロッパからアジアにかけて出現
約30万年前~約20万年前:ホモサピエンス(現生人類)、アフリカに出現
約5万年前~4万年前:現生人類がヨーロッパに到達

BBCニュース

プルトニウム244の存在も同様に、最近の近場での中性子星の衝突を示唆するらしいです(核実験でもできるのでイマイチな指標という指摘もあり)。これは超新星爆発ではあまり生成されないそうな。

The same applies to the plutonium isotope with an atomic mass of 244. However, this plutonium-244 is more likely generated by the collision of neutron stars than by supernovae. Thus, it is an indicator of the nucleosynthesis of heavy elements. After a period of 80 million years, about half of the plutonium-244 isotope has turned into other elements. Therefore, the slowly decaying plutonium-244 is, in addition to iron-60, another indicator of galactic events and the production of new elements in the last millions of years.

プルトニウム244は半減期が8000万ということで恐竜絶滅の6600万年からすると十分長いですなぁ。

ただプルトニウム244の生成条件にはまだ議論が続いているようで、中性子星の衝突が必要かどうかは確定してないみたいです。

“Exactly how often, where, and under what conditions these heavy elements are produced is currently the subject of intense scientific debate. Plutonium-244 also requires explosive events and, according to theory, is produced similarly to the elements gold or platinum, which have always occurred naturally on Earth but consist of stable atoms today,” Wallner explains.

で、このFe 60 とかplutonium-244は計測が非常に難しいので、ウォールナー教授がオーストラリアの専用施設に行ってNASAから貰った月の岩石から計測する予定という所で記事は終了。

On a research trip until the beginning of November 2023, Wallner and his colleagues will hunt for further cosmic isotopes at particularly suitable AMS facilities in the Australian cities of Canberra (iron-60) and Sydney (plutonium-244). For this purpose, he has received a number of lunar samples from the U.S. space agency NASA.

まー、月にも地球にもこれらの同位体がちょっとあるのが知られていて、超新星爆発とか中性子星の衝突が結構近くで起こらないと太陽系に到達して、更には磁気圏を突破するのは無理筋だから、太陽系の歴史からみて割と最近にこのようなイベントがあったと考えるのが妥当だという話でした。

でもこの超新星爆発があると数十パーセクくらいのデブリの雲ができてそれが太陽系に到達すると考えられている。それ以上は拡散しない。

Once massive stars have burned up all their fuel, their cores collapse into an ultra-dense neutron star or a black hole, while at the same time, hot gas is ejected outward at a high velocity. A large part of the gas and dust finely dispersed between the stars is carried away by an expanding shock wave. Like a giant balloon with bumps and dents, this envelope also sweeps up any material already present in space. After many thousands of years, the remnants of a supernova have expanded to a diameter of several 10 parsecs, spreading out ever more slowly until the motion finally ceases.
大質量星は燃料を燃やし尽くすと、コアが崩壊して超高密度の中性子星やブラックホールになると同時に、高温のガスが高速で外部に放出される。星と星の間に細かく分散していたガスや塵の大部分は、膨張する衝撃波によって運び去られる。凹凸のある巨大な風船のように、この包みは宇宙空間にすでに存在する物質も一掃する。何千年も経つと、超新星の残骸は直径数10パーセクにまで膨張し、さらにゆっくりと広がり、ついには運動が停止する。

直径数10パーセクというのはもとの英語はseveral tens of pcなのでせいぜい70パーセク。それ以上は拡散しないのならば超新星爆発が70パーセク以内であったと言いたいのか。因みに10パーセク以内だと生物絶滅イベントですぞ。大丈夫か。

ウォールナー教授の総説論文

https://www.annualreviews.org/doi/10.1146/annurev-nucl-011823-045541

SciTechDailyの記事では、背景はまーわかったけども、これから精密な測定をして鉄60がどのくらいあるのか、いつの年代の地層にあるのか決めまーすというところで終わってしまったので、ウォールナー教授の最近の総説をみてその後どうなったのか見てみましょう。

要旨はこんなの。

Live (not decayed) radioisotopes on the Earth and Moon are messengers from recent nearby astrophysical explosions. Measurements of 60Fe in deep-sea samples, Antarctic snow, and lunar regolith reveal two pulses about 3 Myr and 7 Myr ago. Detection of 244Pu in a deep-sea crust indicates a recent r-process event. We review the ultrasensitive accelerator mass spectrometry techniques that enable these findings. We then explore the implications for astrophysics, including supernova nucleosynthesis, particularly the r-process, as well as supernova dust production and the formation of the Local Bubble that envelops the Solar System. The implications go beyond nuclear physics and astrophysics to include studies of heliophysics, astrobiology, geology, and evolutionary biology.

地球と月に存在する生きた(崩壊していない)放射性同位元素は、最近近くで起きた天体物理学的爆発からのメッセンジャーである。深海サンプル、南極の雪、月のレゴリス中の60Feの測定から、約300万年前と約700万年前の2つのパルスが明らかになった。深海の地殻から244Puが検出されたことは、最近のr過程事象を示唆している。これらの発見を可能にした超高感度加速器質量分析技術について概説する。そして、超新星核合成、特にr過程、超新星ダストの生成、太陽系を包むローカルバブルの形成など、天体物理学への影響を探る。さらに、核物理学や天体物理学にとどまらず、太陽物理学、宇宙生物学、地質学、進化生物学などにも影響を及ぼす。

おお、いきなり重要な事実がありますね。測ってみたら約300万年前と約700万年前にピークがあったのですね。少なくとも二回超新星爆発が近傍で?

Wallnerらは、4つの堆積物コア、2つの鉄マンガンクラスト、2つの鉄マンガン団塊という、3種類の深海底試料の加速器質量分析を行い、鉄60の他、年代測定などのためにアルミニウム26(26Al)、ベリリウム10を測定した。その結果、鉄60が地球全体のさまざまな海域の試料から検出されること、また、検出されるのは特定の時期の層にほぼ限られることが分かった。鉄60が検出される層の鉄60の同位体比は、平均でバックグラウンドの約40倍に達していた。測定結果は、870万~650万年前と320万~170万年前の2回にわたり、鉄60を地球にもたらす大きなイベントがあったことを示し、その源は超新星と考えられた。

ネイチャーダイジェストから

r-process(r過程)というのはなんすかね。生物学者にはわかりませぬぞ。

Kilonova or macronova explosions result from mergers of two neutron stars or of a neutron star and black hole (12). The resulting coalescence is expected to produce a black hole, but some neutron star material can escape, ejected in tidal tails or in an accretion disk wind. As this neutron-rich material decompresses, it undergoes reactions far from nuclear stability, producing a vast array of radioisotopes up to and including actinides by the so-called r-process (13, 14). The decay of these species powers a kilonova outburst as seen in coincidence with gravitational radiation in the GW170817 event (15).
キロノヴァ爆発やマクロノヴァ爆発は、2つの中性子星、あるいは中性子星とブラックホールの合体によって起こる(12)。その結果,合体によってブラックホールが生成されると予想されるが,一部の中性子星物質が潮汐尾や降着円盤風に放出されて脱出することがある。この中性子過剰物質が減圧されると、核の安定性からかけ離れた反応を起こし、いわゆるr過程によってアクチニドまでの、そしてアクチニドを含む膨大な数の放射性同位元素を生成する(13, 14)。これらの放射性同位元素の崩壊は、GW170817で重力放射線と同時に見られたように、キロノバ爆発を引き起こす(15)。

あ、なるほど中性子が過剰な中性子星とかで爆発があったりして中性子が中心部から逃げ出し、外側にある他の重い物質にぶち当たって色々な放射性同位元素ができるのですか。重い核種に対してエネルギーの高い中性子の量が多く出来た同位体のベータ崩壊が起こる前に次の中性子が当たるような早い過程ということでRapidのRをとってr過程というらしいです。

で、結論であるように

The discovery of deep-sea 244Pu indicates recent near-Earth r-process activity. This opens a new window on the physics of the r-process and its astrophysical site. Future 244Pu measurements with better time resolution will be illuminating, particularly in concert with measurements of other radioisotopes.

地球の深海サンプルからプルトニウム244が見つかったということは、太陽系のそばでr-processが最近あったことを意味していると書いていますわwww

上にあるようにr-processは中性子星の衝突か、中性子星とブラックホールの衝突、または超新星爆発で起こるのですから、r-processで出来た同位体を含むガスが太陽系に半減期の数倍で太陽系に到達できる近隣で最近起きたということですかwww

そんなのは恐竜絶滅で済むんですかwwww

しれーっとおっそろしいことを書いてますな。ウォールナー教授。

太陽系には磁気圏(heliosphere、ヘリオスフェア、太陽圏)があり、それが荷電粒子を弾くし、太陽からのコロナ質量放出ですら弾く地球磁気圏はさらに強力でそれがさらに跳ね返す訳です。

逆に10パーセク以内で起こると生物絶滅イベントものの地獄になるが、100パーセク以上離れていると到達しない。なので10パーセク以上70パーセク以内とかで、磁気圏を突破できるくらいの速度が達成できる距離じゃないとデブリ、ガスは太陽系に到達しないのでさじ加減が難しいことになります。

一応、主流派の天体物理学では100パーセク以内の距離であれば超新星爆発からのチリとガスが同位体を地表へ届けることができるという計算結果があり、この見方を支持しています。

1996年に画期的な計算が行われ、地球から約100パーセク(約300光年)以内という比較的近い距離で起こる超新星爆発であれば、生じた放射性核種は地球まで到達し、地球上に堆積した可能性があるという研究結果が報告された4。
4  Ellis, J., Fields, B. D. & Schramm, D. N. Astrophys. J. 470, 1227–1236 (1996).

ネイチャーダイジェスト

8パーセク以上の距離がないと地球環境へ与える影響がありすぎて絶滅イベントになります。オゾン層が崩壊するそうです。

この研究は、超新星爆発の「殺傷距離」を約8パーセクと具体的に与え、その範囲内ではこれらの高エネルギー粒子による地球上の生物相への影響は壊滅的なものになるだろうと推測された6。
6 Gehrels, N. et al. Astrophys. J. 585, 1169–1176 (2003).

ネイチャーダイジェスト


計算機モデルは地球磁気圏を無視していた

ただ問題なのは、100パーセク以内なら届くという計算では地球磁気圏と太陽磁気圏の影響が考慮されていないようです。

私が注目しているベン・ダビッドソンのこの動画なのですが

26分

26分あたりでは超新星爆発を支持する主流派の物理学者たちは地球磁気圏を無視して計算しているので我々のモデルはデータをよく説明できる!と言っているが、空気を読み忘れたチーム(Brianら)が地球磁気圏を考慮したモデルを作ってみたら、Dusty Pinballsとあるように超新星爆発のガスの雲はピンボールでボールが弾かれるように太陽系、地球磁気圏によって迂回するという結果にwww

地球の磁気圏が健在ならば近傍とは言え、太陽系外がらやってくる超新星爆発のデブリ・チリ・ガスが地表に到達するのは無理であり、Fe 60 とかは超新星から来たのではないと言っているのです。

で、逆に近いと絶滅イベントだと他の天体物理学者も言っていると

25:47付近
超新星爆発はデボン紀の生物種の絶滅を引き起こしたという論文

超新星が遠くであると太陽系と地球の磁気圏に弾かれて同位体は地球の地表には到達できないが、もし超新星爆発が近場であると地球の大気が吹き飛ぶので生物種絶滅では済まないとベン・ダビッドソンは言ってます。

うーむ、これはまあ、距離によるのかもですなぁ。10−70パーセクならあり得るかもだし。

一応ですねぇ、さっきのネイチャーダイジェストにはシミュレーションの結果があって、

Breitschwerdtらは鉄60の地球への輸送のモデル化や数値シミュレーションを行い、深海底の鉄マンガンクラストに含まれる鉄60は、地球から90~100パーセクの距離で230万年前と150万年前に起きたとみられる2回の超新星爆発によってもたらされたと結論した。

90~100パーセクで説明可能とあるのですね。

でも、これも例によって地球磁気圏を無視しているはずなのでイマイチ信用ならないわけです。

多分、もう少し近くないとだめじゃないかなぁー。

という訳で、決定打がないのですな。


太陽系で鉄60ができる可能性はあるのか?

もしウォールナー教授が間違っていて超新星の結果で鉄60が地表や月面で観測できたのでないのならば、太陽系内で出来た可能性が出てくるのですが、それはどのくらいあり得るのかを次にちょいと調べました。

まずは中性子星みたいなたくさんの中性子は期待できませんが、太陽内部とかにはある程度あるとは思います。しかし、太陽くらいの恒星で生成される元素はせいぜい炭素とか酸素までとあります。

https://www.nipponsteel.com/company/publications/monthly-nsc/pdf/2004_10_142_09_14.pdf

それでも太陽フレアとかがある時に少量の中性子が漏れて、それがすでに重い元素にぶつかって同位体ができるというシナリオは一応あり得るでしょうか。星間物質とか。・・・量が少ないですなぁ。

https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2010JA015930

金星に向かっている人工衛星「メッセンジャー」が2007年の12月に中規模な太陽フレア(M2クラス)を観測した時に、X線の上昇に伴って、陽子の検出が増えたのは想定内だけどなぜか中性子も陽子と一緒に検出されてしまったと。これをして「Questionable detection of neutrons」と半信半疑な様子がわかります。

We find that there is no compelling evidence for a high electron/proton ratio in the solar energetic particle (SEP) event, raising concerns that the neutron counts came mostly from SEP ion interactions in the spacecraft; this concern is supported by the similarity of the SEP and neutron count rates
我々は,太陽高エネルギー粒子(SEP)事象において高い電子/陽子比を示す説得力のある証拠がないことを発見し,中性子計数はほとんどSEPイオンとの宇宙船内での相互作用によるものであるという懸念を提起した。

で、結局は人工衛星の中にある炭素と陽子が反応して中性子ができたんじゃないか?と推定しています。うーむ。

Instruments at 1 AU cannot directly detect <10 MeV neutrons because their travel time from the Sun (>55 min) is long compared to the lifetime of free neutrons (∼15 min exponential lifetime).
太陽からの移動時間(55分以上)が自由中性子の寿命(約15分の指数関数的寿命)に比べて長いため,1天文単位の実験装置では10MeV未満の中性子を直接検出することはできません。

なるほど。地球上の検出器では太陽由来の中性子は計測が困難なのですね。なぜなら半減期が15分くらいで、太陽から到達するまでは一時間くらい掛かるのでほとんど崩壊しちゃうと。それこそカミオカンデとか作って超敏感な装置で頑張らないと行けない。

In this paper we discuss the production of low-energy neutrons in solar flares and relate this to the production of higher-energy neutrons and γ rays detected with Earth-orbiting satellites since the late 1970s
この論文では,太陽フレアにおける低エネルギー中性子の生成について議論し,1970年代後半から地球周回衛星で検出されている高エネルギー中性子とγ線の生成と関連付ける。

で、太陽に近い人工衛星はもちろん大気の外にある地球周回中の人工衛星なら中性子を大掛かりな装置なしで検出できて、実際に1970年代から検出されてきていると。

We then evaluate the evidence presented by Feldman et al. [2010] and conclude that most, and perhaps all, of the neutron counts detected by MESSENGER were not due to solar neutrons
次に,Feldmanら[2010]によって示された証拠を評価し,MESSENGERによって検出された中性子計数のほとんど,そしておそらくすべてが太陽中性子によるものではないと結論づけた。

でもこの2007年の中性子は太陽由来じゃないよーと主張しているのがこの論文ですか。なんにしても大した量はやっぱりフレアでもこなそうです。

にしても太陽由来の中性子はsolar neutronsと呼ぶのですね。フムフム。

ではsolar neutronsで再検索してみましょう。

A solar neutrino is a neutrino originating from nuclear fusion in the Sun's core, and is the most common type of neutrino passing through any source observed on Earth at any particular moment
太陽ニュートリノは、太陽の核融合に由来するニュートリノであり、地球上で観測されるニュートリノ源の中で、ある特定の瞬間に通過する最も一般的なタイプのニュートリノである。

ウィキペディア

ま、半減期が15分であることを考えると太陽系外は無理だし、そうなると太陽以外のソースはあまりなさそうなのです。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%8E

にしても、量は大した量はないのでやっぱり太陽系外に由来を求めることになりそうです。

では、本筋であるr過程についてその発生条件をもう少し掘りますか。そうしたら超新星爆発じゃなく、もうちょっとマイルドな条件で、かつ近傍で起きるような筋書きも想像できるかもしれません。

新星novaと矮新星Dwarf nova

まずは超新星爆発以外のノヴァについて調べます。

矮新星[1](わいしんせい、英語: Dwarf nova[1])は、激変星の一種であり[2]白色矮星と通常の恒星の接近した連星から構成される。白色矮星には恒星から質量が転移され、降着円盤を形成している。ふたご座U型変光星とも呼ばれる。白色矮星が周期的に爆発的に明るくなるため、古典新星と似たように見えるが、メカニズムは異なる。即ち古典新星は降着円盤中の水素熱核融合を起こして明るくなるのに対し、現在の理論では、矮新星は降着円盤の不安定性により、円盤中のガスの粘度が変化する臨界温度に達し、白色矮星上に崩壊して大量の重力位置エネルギーを放出することで明るくなるとされる[3][4]

ウィキペディア

お、これは結構マイルドな条件ですなぁ。中性子星がいらないのがいいですね。太陽みたいな恒星にたくさんのガス・チリが注ぎ込むことで燃料追加している訳ですな。

似たものに古典新星というのがあると書いてます。

新星(しんせい)は、激変星の一種である。恒星(白色矮星)の表面に一時的に強い爆発が起こり、それまでの光度の数百倍から数百万倍も増光する現象を言う。英語やヨーロッパの言語の多くではノヴァ(nova、複数形 novae)と呼び、変光星の分類としてはN型と言う。他の類似の激変星と区別するために古典新星 (classical nova) と言うこともある。

新星爆発を起こす星は、白色矮星と通常の恒星(主系列星)の連星で、特に双方の距離が小さい近接連星である。距離が小さいので主系列星の表面の水素ガスが白色矮星の強い潮汐作用により流出し、白色矮星の周囲に降着円盤を形成して降り積もる。水素の供給は長期にわたって持続するので、白色矮星表面には次第に水素が堆積する。白色矮星の強い重力のため、落下する水素は大きな運動エネルギーを持つので、白色矮星表面への衝突で大きな熱が発生し、また重力によって圧縮されて密度が高まる。これは核融合反応を起こす条件となる。

ウィキペディア

なるほど。もともと恒星だったけど縮退した白色矮星に近くの恒星からガスとか物質を奪い取って水素が蓄積して中心部のいつも核融合が起こっている場所よりも表面近くでも核融合が起こって強い光を出すのが新星(古典新星)ですか。

どちらも超新星爆発みたいに星の終わりではなく連星で周期的に起こる小爆発みたいな感じですな。

頻度
新星爆発後も連星系に大きな変化はなく、相手の恒星から白色矮星への水素の流入は継続するため、いずれ再び新星爆発を起こすこととなる。ただし爆発の間隔は1000年から10万年と推測されており、ほとんどの場合、1度だけの爆発しか観測されていない。

ある程度大きな星じゃないと起こらない超新星爆発と比べたらかなり頻繁に起こる訳ですな。

マイルドなのはよいのですが、これがr過程を伴うかは疑問なのが玉にキズ。

ウィキペディアをみると

r過程(アールかてい, r-process)とは、中性子星の衝突などの爆発的な現象によって起こる、元素合成超新星元素合成)における中性子を多くもつ鉄より重い元素のほぼ半分を合成する過程のこと。

https://ja.wikipedia.org/wiki/R%E9%81%8E%E7%A8%8B

とあって、中性子星の衝突という派手なイベントで起こるとあります。中性子星の衝突は実際に観測されて、色々な観測機器のスペクトラムからr過程が確認されたのでかなり確実なメカニズムなのですが、歴史的にみると超新星爆発が人気の理論だったらしいです。

さっきのネイチャーダイジェストは2016年出版なのですが、

1999年、深海底の「鉄マンガンクラスト」(海底の露出した岩石などを覆う層状の鉄・マンガン酸化物集合体)から鉄60が検出された5。鉄60は半減期が260万年の放射性同位体で、多くの型の超新星で豊富に作られる一方、超新星以外の経路でもたらされる量は最大で超新星の10分の1ほどにすぎないため、超新星の非常に優れた指標になる。

という感じにかなり断定的に超新星爆発で作られるとあります。

こちらでも中性子星の衝突説があることも言及しつつ、超新星爆発説も死んでないぜみたいな論調でした。

自然界に安定して存在する元素で鉄より重いもののうち約半数は、超新星爆発で合成されると考えられている。高温高密度の環境で原子核に取り込まれた中性子がベータ崩壊して陽子に変わり、金やウランなどの重元素となる。急激に進むこのプロセスは、rapid(高速)の頭文字をとって「r過程」と呼ばれている。

AstroArts

こちらのr過程の歴史というスライドを見る限り、今の学会では中性子星の衝突説の方が有力みたいで、超新星説がバカにされていますw

超新星爆発をディスるスライドww

しかし、逆に中性子星衝突にも批判があって、特に宇宙の初期では中性子星そのものがレアなために、別の機構もないとイカンだろという主張があるようです。

こちらのnatureにのった論文にはこんなことが書いてあった。

rプロセス元素に関しては、銀河の化学進化モデルは中性子星合体だけでは観測されたrプロセス元素の存在量パターンを再現できず、磁気回転超新星など他のrプロセスサイトが支持されている。

で、このnature論文では強い磁気を帯びていて回転している重い星が超新星爆発(magnetorotational hypernova)した場合は、中性子星なしでもr-processが起こるという計算結果と、SMSS J200322.54−114203.3という天体は、太陽の25倍くらいの質量の星がmagnetorotational hypernovaした時に生じる元素の分布パターン予想と一致するという観測結果を示している。

それとその星の周りにある星間物質の種類と濃度も大事らしい。

そもそも宇宙の初期には中性子星はまだあまりないはずで、さらには中性子星の連星となると激レアになるので、中性子星の衝突というr-processの一番典型的な例というのは実は宇宙初期ほど実現し難い。重い元素が増えてきたらば可能だろうけども、最初に重い元素をつくるr-processが起こった別のメカニズムがあるだろうと科学者たちは予想していて、このmagnetorotational hypernovaでr-processでできる元素が出来てるっぽい星を見つけたので実は中性子星は必ずしもいらないだろうという主張をこの論文は裏付けたと。

A hypernova (also known as a collapsar) is a very energetic supernova which is believed to result from an extreme core-collapse scenario. In this case, a massive star (>30 solar masses) collapses to form a rotating black hole emitting twin astrophysical jets and surrounded by an accretion disk.

https://en.wikipedia.org/wiki/Hypernova

極超新星hypernovaというのは超新星爆発のでかい版で、太陽より30倍とかのデカイ天体が重力崩壊して、回転するブラックホールになり、超新星爆発の10倍の速度で両極端から物質を放出するような現象らしい。

光速の10%とかいう恐ろしい速度でガスを放出
しばしばガンマ線バーストが伴うらしい。

マイルドとは言い難しww

ふーむ、やはりブラックホールの連星とか中性子星の連星とか、太陽の30倍の恒星とかがないとこういうr-processはなかなか期待できなさそうです。

なので色々と調べましたが鉄60がどこから来たかというと、結論はわっかりませーんですわ。

多分、ここに紹介した中だとウォールナー教授説のほうが優秀かなと思うのですが、実は執筆中にど忘れしていたベン・ダビッドソンがいつも言っているアレを考慮するのを忘れたので、実はまったく別の可能性があります。これによるとダグラス・ボーグとかベン・ダビッドソンが言っている説のほうが有力に見えます。ヒントはgalactic sheetです。

ただ、それを調べて裏取りしていないのと、記事がすでに長いので一度これはこのままとりとめのないまま公開することにします。

まあ、調べ始めからメモ代わりに方針もなしに記事を書いていたので、しょうがないですなw

とりとめなくてスマソ。

次の記事はいつになるかは調べもの次第ですが、宇宙物理が私には難しすぎて捗りませんでしたので、いつになるか見当も付きませんw

(`・ω・´)ゞじゃーな。