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木造住宅の4分割法と偏心率法で結果が異なる件

木造住宅の壁量計算において、新耐震(S56)では、特にバランスの規定はなかったと思うのですが、阪神・淡路大震災を経て、H12の改正(告示1352号)で、検討することになりました。だいぶ前の話なので昔話です。

さて、その方法は、X・Y別で、建物の平面を1/4ごとに区切り、その即端部の必要壁量・存在壁量を求め、壁量充足率を求めるというもの。建物の1/4の部分に壁が0だと成り立たなくなります。この方法は非常に簡便なうえ、1/4というわかりやすい部分に壁がないのは危険!と理解させるうえでも価値があります。Wallstatなどで揺らしていてもやはり外周部に壁があると安定しやすいように感じますので、構造設計の原則だと思います。

もう一つ、偏心率法での計算方法があります。壁量計算で偏心率というと、構造技術者はどうやって求めるの?と首をかしげます。なぜなら重さの概念があるからです。壁量計算のときの偏心率は、長期荷重による軸力をきちんと求めず、各階共、固定荷重、積載荷重等が一様に分布しているものとして出します。なので正しいといえば正しいし、正確でないといえば正確ではありません。しかし複雑な建物でも無い限り、そのことが大きく危険になることはないので、これはこれでありかもしれません。もちろん構造計算を行えば、きちんと荷重を反映して計算できるので、やはり構造計算をやったほうが良いことになります。

4分割法と偏心率法は、どちらもバランスを検討しているのですが、極稀にまったく違った結果になることがあります。両方検討する人は少ないかもしれませんが注意が必要です。特に大きく変わってくるのは木造耐震診断のケースです。ここでは耐震診断例を紹介します。

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この建物は、前面が車庫で見るからにバランスがわるいのですが、補強してY2,Y3を大幅に強化し、バランスを取った建物です。偏心率では、まだ剛心が重心から離れていて、若干不安定気味です。この状態でも0.3を切っているので基準法上問題はありませんが、耐震診断では影響が出かねない0.26なのでちょっと不安です。

4分割法で耐震診断を行うと

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評点は1階X方向で決まり、1.114となります。一応倒壊しないになります。これなら一応安全とういことで、補強の必要なしと判断する方が多いと思います。4分割法だと、壁量の多いY6通りが4分割ラインにギリギリ入っていないため、それほどバランスが悪いと判定されないためです。

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偏心率法では、こんな感じになります。偏心率法だと、それぞれの一番外側の壁量の差だけでなく、Y6通りが大きく影響するため、偏心率が悪くなります。そのため配置低減係数が大きく低下し、診断結果は0.843となり、補強の必要ありとなります。この2つのデータは同一で、ただ4分割法か、偏心率かを変えただけでこの結果の差となります。

設計者は、数字を鵜呑みにするだけでなく、複数の方法で検討しこのように有利不利が分かれる場合は、どのように考察するか?が重要だと思います。ただソフトに入れるだけなら誰でもできます。このようなときのために、学習しているのです。ソフトを買ったら耐震診断くらい簡単にできる、などと思わないで欲しいです。

個人的には、通常、構造計算ソフトで荷重をある程度加味して偏心率をもう少し精査して、どちらがより近いか?確認します。今回の場合、上階の壁線ラインが揃っており、荷重の影響をそれほど受けない状況での結果なので、偏心率を優先し、偏心率を用いた側の診断結果を採用しました。

このようなケースはそれほど多くはないのですが、多数診断や構造設計を行ってくると、意外と多く体験します。このケースはこれ、のような決まりを作っておき、あとは内容を精査して判断したいものです。間違っても数字的に有利だから、みたいな選択は避けたいものです。

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