肉体の一部を人にあげてきた話
もう時効だと思うし、アレのワクチン打つ前に献血しようとかの話題が流行ってるから、いい機会かなと思って書く。
何の話なのか察してくれよな。
場所や日時、相手の情報が特定できるようなことは書いてないつもりだけど、ウーンて思ったら記事消す。
みんなが気になるであろうことを結論から言うと、
● 隔週か週1くらいで2ヶ月ほどは病院に通うので時間はすごいとられる。
● 交通費や診察費などは全部向こうが持ってくれる。
● 身体的な痛みやしんどさはそれほどではない(※主観)
● 助成金や医療保険でがっつりおつりがくる。
です。
01. はじまり
某日、
まずショートメールが届いてなんかのフィッシングかと思った。
ほぼ同じタイミングで封書(書類)も郵送で届いて、どうやら詐欺じゃないぞと理解。
数年前に登録していたのを思い出し、「わー本当に白羽の矢が立つことってあるんだなー」って不思議な感じだった。
そこは秘密結社じゃないんだけど、認知度がやたら低いという点ではほぼ秘密結社だと思う。
ちなみに登録方法は、献血ルームで登録意思を伝えるだけ。
献血の前に伝えると、献血のために採った血を登録用にも回してくれるので楽です。
献血終わった後に言うと、もう一度採血されるわよ(経験者の顔)
02. 意思確認の前にまずは説明
書類に記入して返送したところ、電話が。
担当のコーディネーターがつく。
日程調整をして面談。説明を丁寧に受けた。
提供方法のパターンとか、術後までの流れとか、リスクとか。
「○年前に登録したのはなんで?」と聞かれる。
「なんとなく」と答えた。
本当になんとなくでしかなかった。いや、もしかしたら当時登録するとハーゲンダッツもらえるみたいなのがあって釣られたのかもしれんけど。
「んふぅw」て笑われてしまった。何が正解だったんだ…。
そういう質問に対してマジレスすると話が長くなるじゃん? そういうの求めてないでしょ…!
あげれるものがあって、欲しい人がいるならあげればいい。そういう感覚が昔からある。
よほど必要なもの以外、私はなんでも人にあげちゃう。まったくそれの延長線だった。
あとは「面白そうだな」とか。
迷惑な話だけど「手術中とかに何かが起きてうっかり死ねたら棚ぼただな」とか。
(生きてて楽しいとも思うし、はっきり死にたいわけではないけれど、うっかり死にたい。そういう感覚、わかってくれる人もいるでしょ?)
それから、いろいろな質問をされた。
飲酒するかとか、持病はあるかとか。
「運動まったくしません」と恥じらいながら答えたら、「急に運動始めて怪我されたり筋肉痛になられるほうが大変なので、そのままのあなたでいてください」と言われた。
こんな「そのままのあなたでいて」はじめて。
その後、医師も交えての面談に。
「酒は飲む?」の質問に「少し…」って答えたら、「じゃあ常飲なしだね。そのままの君でいて😊👌」とも言われた。
そのままの私、需要あるな。
03. 同意のサイン
意思の確認やら書類へのサインやらが終わっても、日を分けて打ち合わせは続いた。
本当に型が合うのか、再度採血してチェック。健康に問題はないか、健康診断を受ける。さらなる意思確認の面談。そういう。
「とりあえず」で6本採血されるのぜんぜん「とりあえず」じゃなくておもしろかった。
そしていつものことながら血管見つけにくくってえらい目にあった。
(6本前後の採血が今後も当たり前のように頻発することをこのときの私は知らない)
そして血液検査で問題ないという結果が出て、逆に「まじか」って思った。
いつも身体のどこかがおかしくなってるよわよわボディなのにな。健康だったんだな。
そんなこんなで患者さんが正式に移植を希望し、ドナーとして確定する。
電話でそのことを伝えられ「わかりましたー」って返事したら軽すぎたのかまた笑われてしまった。私も自分で軽すぎたなと思って一緒に笑った。
その後もコーディネーターやら担当医やら麻酔科医やら、やたらある面談で「聞きたいことはないですか」「不安なことはないですか」と都度たずねられる。
「特にないです」祭りなのであった。
私が急に心変わりした時とか、「あの人は聞いてくれなかった💢」みたいにならんよう、こんなくどく聞くんだろうなーと思った。
このあたりから、「ドナーの機嫌を損ねてはならない」という向こう側の緊張感を察し始めた。
過去に色々あったんだろうな……。
麻酔科医に対してだけは「麻酔で朦朧として変なこと口走っても聞かなかったことにしてください」とお願いした。
最終の手続きでは家族の同意も必要で、それ無しではドナーになれないのだけれど、私は家出している身なので事情を説明のうえ、友達に緊急連絡先になってもらった。友達ありがとう。
移植の予定月を聞いて、ほんとにやるんだな〜て改めて感じた。
相手も私のことを認識したわけだから、やっぱやれませんでしたになったらがっかりさせちゃうな…。体調を崩さないかとか、そういう不安。入院の日が近づくほどそのプレッシャーは大きくなって、1週間前くらいから「はやく病室に収容されて楽になりてぇ」って思ってた。
04. 周囲の反応
待機期間中、大なり小なり知人友人にドナーになることを打ち明けた。仕事やプライベートの調整で事情を話す必要もあったので。
そうしたら、思っていたよりみんな反対する。他人の意思決定に結構口出しするんやな…。
どこかの命がどうにかなることより、目の前の人が最悪死ぬ(肉体的に損をする)かもしれんということのほうが気になるようだった。「あなたが死んだら夢見が悪いし」みたいなニュアンスに聞こえるものもあった。
中には「お金ももらえないのにやってなんの意味があるの?」「それって損だからやめなよ」ってはっきり言う人もいた。
(でも実は自治体が助成金を組んでくれていたり、医療保険からお金がおりることもあるよ)
要するに心配してくれているんだろうけど、なんか変な感じだった。
私に興味ない人のほうが「へーすごいね。人のためになることをするんだね」みたいに言う。
仲良くしてる人は「そうなん。やりたいようにすればいいとおもうよ」って言ってくれる。さすが私がなついている人間……ほどよい距離感。
周りに理解は求めるだけ無駄かもしれんなと思った。
そもそも骨髄移植がなんなのかびっくりするくらいみんな誰も知らない。身体切るんでしょ?みたいな。未知のものにはそりゃ忌避感でるよね。
これ、家族の説得しないといけない人は相当大変だろうな。
05. その日までの日常
それにしても、思ってるよりボディ管理が厳しかった。一番恐れていることが手術の中止だから、そりゃそうなんだけど。
スポーツなどの怪我だけでなく、日常の筋肉痛にも気をつけるように。
飼っている猫に引っ掻かれたり噛まれないように(これはガチめに念押しされた)
歯医者はしばらく行かないように(歯茎から血が出るので)
ちょっとした出血や発熱も含めて、いつもと違うことがあれば即連絡。
大雨が降ったらコーディネーターさんから安否確認の電話がくるほど。
私の身体を、私よりも大切にしてくれているのを感じた。
手術予定日の1ヶ月前くらいから、事前検診(健康診断みたいなやつ)、自己採血、自己採血…と1週間おきに病院に通う。
説明されていても実際に体験してみると、けっこう忙しい。
ちなみに自己採血というのは、後々の自分に輸血するための採血。骨髄=血液のようなものなので、手術当日は骨髄を抜いたぶんだけ失血→貧血になるから…らしい。
結果として、気をつけていても熱を出したり、怪我したりもして、「どうして今なの」「ああやってしまった」などなど、そういうこともあった。このときの気分は最悪だった。
採血や手術の予定が狂わなかったことが本当に救い。
ただ、そういうトラブルを起こすからほぼすべての日程に(個人的な通院まで)コーディネーターさんが付き添うという「保護者付き園児」みたいな状態になって情けなくて笑ってしまった。
06. わたしと、そのひとのこと
事前検診のタイミングで「患者さんの簡単な情報(どこ住み何歳くらいとか)を知ることができますが、知りたいですか?」と聞かれた。
他人の人生にあまり責任を感じたくないので辞退。
実際のところ、成功するかもわからない移植手術なんだもの。
07. 入院間近
自己採血の日。400ml抜いて200mlくらい生理食塩水を点滴してもらった。
そのあとの立ちくらみ、背中に妖怪が乗ったような重さでゆっくり身体が勝手に前屈みになってやばかった。
度重なる採血のなか、献血ルームの方々がいかに針を差すのがうまいのかを感じた。病院の方もうまいけど。
体調を崩さないかのプレッシャーに地味にさいなまれた。
非接触型(額で測る)体温計にめちゃくちゃ振り回された。36.8と37.8を誤差の範囲にするな。
入院に際し、飼っている猫についてどうしようか迷った。
家にペットシッターを呼ぶかどうかとか。でも数日おきに30分くらいしか見てもらえないのも怖いな…と思って動物病院がやってるペットホテルを三泊四日で予約した。
慣れないところに四日もいるストレスを思うと…あれだけど…これ以上に良い選択はないだろうから…。
08. いざ入院
入院は三泊四日。手術は二日目にやる。
初日。病室にいるといろんな看護師や先生が代わる代わる挨拶に来てくださった。
皆さん必ず「アッ、体調は大丈夫ですか!?」て聞いてきて笑った。合コンの「ドコ住み?」みたいな常套句なのか。でも心配してくれているのがありがたい。
というかみなさんすごい丁寧に接してくださるので逆に恐縮しまくりだった。
それにしても病院食、コーディネーターさんから「覚悟しといた方が良いですよ。ふりかけとおやつはある方が良いですよ」と散々おどかされて構えていたのに、それでも想定する100倍は質素だった。
真面目な顔で「なるほどな」って独白してしまった。
でも見た目のシンプルさはともかく、食べてみると味はしっかりついているし、ちゃんとお腹も膨れたから自炊のときよりずっと良いと思った。感謝。
でもでも、ふりかけを持参したのは本気で「命拾いした」と思った。
みんなも入院するときは白米にかけるものを塩でもいいから持ってったほうがいい。いやこれはマジで。
夜、下剤を渡された。浣腸じゃないことにめちゃくちゃ感謝した。
でも出なかったしその後数日も出なかったんだけど手術中に出たりとかないよね…!?ないよね!?!?!?!!!!!?!?これが一番怖いよ私は。
09. いざ手術
手術当日。大事をとって車椅子からのストレッチャーで病室から手術室まで運ばれる。健康なのにわし……はずかぴ……。
なかなかドキドキした。
そんな感じで手術台にヨイショオーされ、いろんな準備が終わって全身麻酔が開始。
全身麻酔って点滴でいれるんだね。
わくわくの瞬間である。
「入ってくるときピリピリするかもしれないけれど、麻酔のせいだから大丈夫ですよ」
ほほう。と思ったら本当に腕がぴりぴりしてき……ぴ、ピリピリ…? どちらかというとビリビリ……これ結構……。
「い、いたいですね…これ…っ(笑)」
って言った次の瞬間から記憶がない。
「終わりましたよー」
って起こされた。
2時間くらい?経過してた。
麻酔…すごい…。思い出せないけど、おだやかな夢を見てた気がする。
そして感じる…ヤツ(尿道カテーテル)の気配を…!
人工呼吸器をつけていた喉や唇の違和感や、腰の施術した場所よりも、その存在感が群を抜いている…!
病室に運ばれてベッドに戻った後も身体中が管に繋がっていて動けないのでちょこちょこ眠った。というか、眠ってやりすごさないと無理だった。目が覚めては「カテーテル…早く抜いてくれ…!カテーテル…!ぬわあぁあぁあ〜〜〜〜!!」て悶えていた。
管が膀胱を刺激して、常におしっこしたい感覚に襲われるのである!地味に辛い!「股間の中になんか入ってる」っていう感覚が!地味に辛い!
数時間待ってやっと安静解除になり、呼吸器とカテーテルが外されたときは「助かった…」とおもった。
カテーテルが抜けるときのズヌゥポ(痛)はまじ……。
この入院で一番辛かったのは間違いなく尿道カテーテル(笑ってネタにできる程度の辛さだけど)
ブジーとか触手で尿道ちゅこちゅこされて喘ぐ受けはまじで正気じゃない。わたしだったらブチ切れてレンチで攻めの股間を10回は殴るし一生許さない。
カテーテル抜いて歩き回れるようになり、忘れた頃にトイレでおしっこしたときは0.5秒間の猛パニックだった。
滲みるのに気付いたときにはもうおしっこ止まらないんだもん。
手術した腰の違和感を忘れるほど尿道がヤバかった。スマホでアニメを見て耐えた。ありがとうスマホ。ありがとうアマプラ。
移植の方法、実は二種類ある。もう一つの方は全身麻酔不要で、献血みたいな感じでもう少し手間少なく(?)やれるみたいだけど、両腕の血管が丈夫じゃないと無理らしかった。
私がやったのは全身麻酔で寝てる間に腰(腸骨)に注射針を刺し、骨の中の汁とるやつ。一回だとちょっとしか吸えないから刺し直しては吸うらしい。私の骨に何個穴が空いたのか聞けばよかったな。
10. 術後〜退院まで
朝から絶食だったので夕飯がめちゃくちゃ嬉しかった。
夕方くらいに「無事に向こうに届いたようですよ」とか教えてもらってすごい感謝されたけど、向こうからしたら今から本番じゃん…コワ……てなった。
感謝されればされるほど、向こうの手術が良いようになってほしいなあ、医療従事者に1億ずつくらい配られんかなあとおもう。
細胞を提供するだけで「私の細胞のせいでなんかなったら申し訳ないな…」とか色々考えるのに、ダイレクトに肉体から資材引っこ抜いて誰かにぶち込むの、当事者としてもっともっと「もしも」のこと考えるわけじゃん。
人の命を預かるって、どんな言葉を選んだって足りないくらい恐ろしいことだと思う。当の本人たちが実際どう思ってるか知らんけども。
こんな神経がざわざわするような働き方(生き方)、まじでこう……むくわれてほしい。伊勢海老とか贈れないけど、リアルで会ったらめいっぱい労りと尊敬の念を送りたいと思う。その人たちが今ほんとうに必要としているもののことを思うと胸が痛む。
話が逸れた。
寝過ぎたせいで、夜は眠るのに苦労した。蒸気でホッとアイマスクは介護用品。
猫が恋しすぎて持参した抱き枕を胸の上に置いて寝た。ホテルの猫はいまごろどうしているのか…。
たぶん看護師がヒくくらい寝まくって過ごした。「若いし大丈夫ですよ」って言われたのにプチ床ずれができるくらいに。床ずれに気づいたときわりとショックだった。若いとは…。
ともあれ無事退院した。
退院した後はしばらく腰の違和感があって(痛いというか鈍痛に近いだるさ)、立ち仕事が地味にしんどい日々が続いた。どんな姿勢でもへんな感じだから立ち方がおかしくなってたのか足を軽く痛めたりもした。
でも鎮痛剤も処方してもらえてたし、大袈裟に騒ぐほどではないからなんとかなった。
11. 振り返って
何度も通院したり、術後のプチしんどさを耐えたりと、めんどくさい行為であることはまあまあ否定できない感じだった。
とはいえめちゃくちゃネタになるので、くじが当たったらみんなやるといいよ。
人工呼吸器と歯に圧迫されて腫れた唇、セクシーだよ(???)
「一回きりとわかっている尿道カテーテル」はまじで感情のアトラクションだからやってみてほしい(??????)
あと、市とかがそこそこの補助金を出してくれるのが一番ありがたかった。
ペット預けたりは自腹だから。
それに、こういうことに対して「金のためにやった」って言えるのが楽。いや実際先にこの金額もらえるとわかっていたらもっとウキウキしながらやってたよ。
大変だったのは間違いないから「褒めちくり〜〜」と精神的な労りを求めたくなることもなくはないが、自己犠牲の英雄みたいに扱われるとちょっとそこまでは…と思う。
結局のところ私は決められたスケジュールに身を委ねて、持て余しているものを差し出しているだけに過ぎない。がんばっているのは医療関係者や患者さん側なわけだから、それらを差し置いてキラキラ扱いされると申し訳なくてダメ。かといって雑巾みたいに扱われたいわけではないので、そのへん優しく扱ってくださることにひたすらありがたく思うのであった。
私はあと事後検診で終わりだけど(※この内容は当時の日記をそのまま引用している)、患者さん側はむしろこれからだと思う。私の手から離れた物語について考えるのは怖いから(何も感じたくないんだごめんな…)(だから患者さんの情報開示も断った)良いようになることを一度だけ祈って、それでもう忘れることにする。
……と考えていた矢先、患者さん側から匿名の手紙が届いた。
情報開示を断ったとき、そういったのもいらないと伝えたつもりだったけど忘れてたぽい。
正直受け取りたくなかったけれど、←のように書いてみてもやはり失礼だし、受け取って読んだ。
やっぱり他人の人生が自分の中に入り込んでくるのつらい。申し訳ないが読まなかったことにして処分した。
私のことなんか関係なしに、誰かがどうにかなる世界でいい。
そんな感じ。とある時期の日記のよせあつめ。
秘密結社(秘密結社ではない)に入りたい人、献血ついでに登録するのが本当に楽だよ。献血できるうちに行って考えてみてね。
献血そのものも、ぼーっとしながら血を抜かれているときにしか味わえない感情ってのがあるから一度はやってみて。
献血は予約もできるけど、しなくても行けるからさ。
追伸
立ち仕事と座りっぱなしになる趣味のせいか、術後1ヶ月くらいずっと腰の鈍痛が続いていて「これ治るのかな…」と不安だったが、ちゃんと緩やかに回復していく。
もしドナーになる人がいたらこれを読んで安心してほしい。