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猫を引き取るために私は引越しをした。(2)

その猫は、白に薄茶のハチワレで、寸尺がバグっていて足が長い。
同じ1歳程度のオス猫と並んでいるのを見たとき、遠近法か?と目を疑った。

しかも、抱き上げようとしたら胴が無限に伸びて(無限ではない)ちびりそうになった。

ネットでよく見るロングキャット画像はまったく嘘ではなかったのだ。

猫と触れ合う機会があまりなかったので、なにもかもにビビる。
すごい生き物だ。

保護猫カフェに通い始めてオーナーに顔を覚えてもらった頃、彼(猫)のために部屋を探していることを雑談で伝えたら、一時保護主?(なんて言うの?)の連絡先が書かれたメモを渡された。
早い早い早い。まだ部屋の契約もしてない。

私は即座に不動産屋へ電話し、「(部屋を)決めました」と伝えていた。
判子を押し、すぐにでも一時保護主へ連絡するために。

私はあの世で、閻魔に「勢いだけで生きてたバカ」と点呼されるに違いない。

でも!!! 猫を飼うと決めたのは本当に勢いだけではない。
部屋を探しながら悶々と悩みに悩んだ。
病気になったときとか、どこまで貯金を切り崩せるだろうとか…。
そういうツイートが連続しすぎて、フォロワーがガンガン減った。

そう、その頃になると「青年快楽リョナ特殊性癖グチョグチョドスケベアカウント」は完全に「ネコチアンbot」と成り果てていた。
フォロワー、すまない。
 
 
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元々の住まいは1DK/バストイレ別/室内洗濯機で家賃3万8千円。
治安が面白いほど悪いせいか、立地も間取りも悪くない部屋ながら安かった。

内覧したときは、壁に人が通れるほどの大穴が空いていて、床は溶けたような凸凹があって、どこかしこに剥がれがあって、安い灰皿が棚の奥に隠されていた。
結局、前にどんな人が住んでいたのかは、最後まで濁された。

暮らしている間も、空き巣事件や強盗事件、夜逃げなどの聞き込みで警察ならなにやらが玄関チャイムを押すこともしばしばあった。
道端で救急車も一回呼んだ。
けれどもその地域に住み始めて6年ほどだが、私が事件に巻き込まれることはなく、まったく快適な暮らしだった。

だから余計に、引越しの部屋選びは難航した。

どの物件でも、家賃が上がって部屋のグレードが下がるのだ。
大手/地元の不動産屋を4社回り、合計12件くらいの候補を出してもらったのにである。
(後半は物件が被りはじめたためそのくらいが限界だった)
(うち8箇所を内覧したが、トンデモ物件巡りだった)

ペット可賃貸は主に、
(1)築年数が古くて家主がヤケクソになっている物件
(2)ファミリー向けのそこそこな物件
の、どちらかっぽい。

後者は、貧乏性な私にはとても手が出ない家賃(6万円↑)ばかりでまず除外。
前者から選んでいくしかない。

古い物件はベースとして家賃が安いはずなのに、ペット料金が乗っているのか元々住んでいる部屋と同じくらい(4万円前後)だった。

今と同じくらいの家賃なのに、築年数は古いし、駅は遠ざかり、終バスも早い。

そして、すべての物件が室外洗濯機だった。
室外洗濯機の物件に住んでいたこともあるが、地味にしんどくて好きではない。

風呂の広さに人権がないのもあんまりだった。
青野原の捕虜収容所の風呂桶のが広い。

さらに、猫を飼う場合は敷金や家賃UPなどの条件付きばかりで(気持ちはわかる)、結局「それだけ払えば本来ならもっとマトモな部屋に住めるぞ金額」だ。

ペット可という条件が付くだけで、選択肢は極端に狭まる。
ペット可とあっても、犬OK/猫NGも多い。
条件を緩めれば、予算を高くすれば、という問題でもない……どの営業マンもそう言った。

ここで、引越しひいては猫を諦めようか迷った。
家賃が上がって生活の質が落ちるのだから、そりゃ迷う。

ほとんどの日数をこの問題で悩んだ。
猫が病気したらお金もかかるしな…みたいにどんどんネガティブになって、諦めかけていたりしなくもなかったが、でもなんか気が付いたら賃貸契約書に捺印していた。

一時保護主の連絡先を受け取ったのが大きかった。これも何かの縁、タイミングだと。

今思うと、諦めた方が自分の生活には有益とわかっていたけれど、諦めたくなかったんだと思う。

本当にこれで良いのか…という不安が無かったわけではないが、賃貸契約を完了させ、元々の部屋の退去連絡も、一時保護主へ電話での挨拶(※1)も済ませたら、かえって清々しい気持ちで開き直れた。
賢者タイムではない。断じて。

(※1 このとき、断りきれずに一時保護主さんと「青年快楽リョナ特殊性癖グチョグチョドスケベアカウント」で相互フォローになり、TLが騒然としたのはまた別の話)

ここまでで、猫と出会ってからぴったり3週間。

選びに選んで契約した部屋は、交渉して家賃は4万円。
立地も元々と比べたら劣るがそう悪くはない。
動物病院が近いのが良い。
敷金が償却(返ってこない)なのは仕方がないし、室外洗濯機も受け入れよう。
両腕を広げたらそれで終わりな広さの風呂場は、掃除が楽だと思えばいい。
住めば都だ。
なにより猫がいる(予定)

引越し業者も4件ほど見積もりを比較して決めて、ダンボールを貰って荷造りする頃(※引越し1ヶ月前である。気が早い)にはなんかもうすごい楽しみになってた。

遠足前の子供状態が週に渡り、夜な夜な荷造りをしてはキャットタワーや爪とぎを検索し、検索履歴は「猫 飼い方」だらけになった。

「いやぁ猫アカウントとか作らないよ。そこまでじゃない」と言った数時間後に「猫を飼いたいアカウント」を作った。

浮かれポンチである。

「まだ猫飼ってないのに…?」「一足先に虚無を飼い始めた」ってフォロワーから言われる。
そうね。

引越し1週間前から通販で順に猫用品をポチり、トライアル(お試しお迎え)を申し込んだ。
 
 
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