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論文5分解説: 連結語尾 -고서

 韓国語の連結語尾には、日本語の「~て」に似てものに -고 と -(아/어)서 があって、両者の使い分けもなかなかくせ者だと思います。これらの連結語尾だけでも大変なのに、さらに2つを足し合わせた -고서 もこっそりと(いや、こっそりではないか)存在しています。この -고서 を、特に似ている -고 と比べながら違いを調べてみた、というのがわたしの論文です。

黒島規史 (2022)「他動性の観点から見た現代朝鮮語の副動詞接辞 -kose (-고서)」『韓国語学年報』18: 33-39.

 これまでの文法書では、-고서 というのは「先行」の意味が強い、ある動作を終えてから次の動作、という順番をはっきり表すと説明されることが多かったです。(1) であれば -고 だと順番関係なく踊ったり歌ったりしたかもしれないが、-고서 なら「踊る→歌う」という順番がはっきりするというわけです。

(1)
사람들이 {a. 춤을 추고서 / b. 춤을 추} 노래를 부른다.
「みんなが{a. 踊って(から)/b. 踊って}、歌を歌う。」

(서정수 1996: 1253)

 -고서 が「先行」をはっきり表すという説明はわかりやすいんですが、それだけではどうしても説明が付かないことがたくさんあるように見えました。そこでこの研究を行ったというわけです。
 わたしの論文では「他動性」という言語学的な観点から考察していますが、要は -고서 は  -고 に比べると、他動詞に関わる現象と関連が深いということです。具体的には、 -고서 は -고 に比べて ① 他動詞と結合する割合が高い、② 否定形で使われにくい、③ 生き物が主語の文で使われにくい、④ 意図的な動作を表す、などの特徴があります。

① 他動詞と結合する割合が高い、② 否定形で使われにくい

 ①と②については簡単に割合のみ示しておきます。まず ①について、-고서 が自動詞と結合した割合は5%であったのに対し、-고 は13%でした。あまり大きな差には思えないかもしれませんが、他の現象も合わせて考えると、意味のある差だと考えたいと思います。次に②ついて、-고서 が否定形で使われた例は2%であったのに対し、-고 は10%でした。

③ 生き物が主語の文で使われにくい 

 -고서 と -고 を比べると、-고서 は生き物以外が主語になる文で使われにくいという特徴があることがわかります。-고 が (2) のように生き物以外が主語の文(ここでは「ドア」)に用いられたのは5%だったのに対し、-고서は1%のみでした。

(2)
얼마 뒤、밖에서 문이 열리 누군가가 들어오는 소리가 들렸다.
「しばらくして、外からドアが開き誰かが入ってくる音が聞こえた。」

[5BE02008]

④ 意図的な動作を表す

 -고서 は基本的に意図的な動作を表し、「うっかり〜してしまった」みたいな文では使われにくいこともわかりました。(3) では、「間違って」とあるように、自分の意図とは異なる動作をしてしまった文ですが、-고 が自然であるのに対し、-고서 は非常に不自然です。

(3)
버튼을 잘못 {a. 누르 / b. * 누르고서} 데이터를 삭제해 버렸다.
「ボタンを間違って押して、データを削除してしまった。」

 わたしの論文ではこのような観察結果をふまえて、-고서 と -고、-(아/어)서 の関係についても述べています。要は -고서 /-고 と -(아/어)서 を比べると -고서 /-고 は他動詞に関わる現象と関連が深く、-(아/어)서 は自動詞に関わる現象と関連が深い、ということです(ここら辺のことは別のマガジンの記事で扱います)。さらに -고서  と -고 を比べると -고서 のほうがもっと他動詞に関わる現象と関連が深い、というのは上で述べたとおりです。

 韓国語学習、特にアウトプットの際には、(4) のような -고、-(아/어)서 では表せない、-고서 特有の用法をおさえておけばいいのかなと思います。この例を見るとわかるように -고서 のは「〜のに」という逆接の意味があります。

(4)
그는 이 사실을 알고서 모른다고 한다.
「彼はこの事実を知っていても知らないと言う。」

李姫子・李鍾禧 (2010: 74-75)

 いろいろな事実を指摘できたと思うのですが、-고서 も -고 もどちらも使えるような場合、究極的になぜ -고서 が選択されるかということまではわかっていません。この点についてはこれからも研究を続けていきたいと思います。


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