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韓国語を読むということ(韓国語読解講座を連載するにあたって)

noteで連載を始めた「韓国語読解講座」は、韓国語で書かれた小説やエッセーを読むとき、どのくらいその文章を正確に読めているだろうか、というわたしの問いと、それに対する現段階での答えから始まっています。この問題意識は、わたしの先生の先生にあたる菅野裕臣先生が書いた「朝鮮語についての談義(朝鮮語はどこまで読めるのか?)」という文章に大きく影響を受けています。

よい辞書とよい文法書があれば、韓国語が読めるのでしょうか。そのような本が手元にあったとしても、単語であれ語尾であれ基本的に様々な意味があるわけで、その中のどれが今読んでいる文章中のものと近いのかを探り当てるのは、それなりに経験と技術が必要です。そもそも、実際の文章を読んでいれば辞書や文法書に載っていないことにも出会うはずです。わたしの専門は文法なので文法に限って言うと、一般的な韓国語学習者の方が手にできる、日本語で書かれた、網羅的な文法書はいまだにないと言ってもいいでしょう。なので、まとまった文章を読むときに一番頼りになるのは、おそらく『標準韓国語文法辞典』(韓国・国立国語院2012、アルク) をはじめとした、文法辞典ではないでしょうか。これは "외국인을 위한 한국어 문법 2 ―용법 편" (국립국어원, 2005, 커뮤니케이션북스) の翻訳版で、他に出版されている韓国語の文法辞典も韓国語から翻訳されたものです。わたしもこの辞典を愛用していますが、もちろんこの辞典に全てが載っているわけはないので、いろいろと論文にあたったり、それでもダメなら自分で研究したりするわけです。

よい先生のもとで、一文一文の意味を、そこに現れている語と文法に気を払いながら読む機会が得られればいいですが、そのような機会はあまりないのではないかと思います。独習となるとさらに難しそうです。韓国語のテキストは、いまや書店に行けばどれを選んでよいかわからないくらいたくさんの種類があります。しかし、読解に焦点をあてたテキストというのは少なく、あっても文章中に出てくる語や語尾に日本語の訳が添えられている程度のものが多いのではないでしょうか(もちろん出版されているテキストには諸々の事情があるでしょうが)。昔は『スタンダードハングル講座5 ハングル読本』(三枝壽勝、1990、大修館書店)のような本格派の読解テキストがありましたが、今はなかなかそのようなテキストを見つけるのは難しそうです。

上のようなことを思っていたなか、英語の分野では相次いで読解テキストにヒットが生まれました。『英文解体新書』(北村一真、2019、研究社)と『ヘミングウェイで学ぶ英文法』(倉林秀男・河田英介、2019、アスク)から始まる小説読解シリーズです。わたしはどちらも読みましたが、特に『英文解体新書』は、初見で読めなかった英文が明確な解説を読むと、たちどころに文の構造がわかり理解できるようになるという、大変勉強になる本でした。もちろん日本語で普段読み書きをしている人が英語を読むのと、韓国語を読むのでは、その難易度にはかなりの差があるでしょう。しかし、日本語と似ている韓国語だからこそ、なんとなく読めたつもりで流してしまっていることも多いのではないでしょうか。そのような問題意識から、上に挙げた英語のテキストのような本を韓国語でも作れないか、と思ったのが韓国語読解の連載をしてみようと思ったきっかけです。

とは言ってもわたしのような駆け出しの研究者がそんな立派なテキストを作れるわけもありません。なので、ひとまずこのnoteで、少しずつ韓国語の文章を読み解いていきたいと思います。noteの内容はわたしの勤務校で行っている、韓国語読解の授業がもとになっています。あくまで文法を研究している人間がどのように韓国語の文章を読んでいるのかを共有できればと思います。また、わたしのささやかな韓国語読解の試みが、韓国語の文章を読んでみたい、という学習者の方のためになれば幸いです。質問や指摘、コメントも随時お待ちしています。

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