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【曲からストーリー】When i dream



「お弁当持ってって」
「いらねー」

「おい、靴下片っぽないぞ」
「じゃ、違うのにしてよ」

「ママーこぼしちゃった」
「あららら大変、お着替えしなくちゃね」

「いってらっしゃーい」


日が当たるベランダいっぱいに洗濯物を干し、
タバコに火をつけた。
あの日、あの人が残していったタバコはあと、3本残ってる。

私にはやりたいことがあった。
だからついこの前まで今の生活に少し苛立っていて、反抗期の息子に、仕事以外なにもしない夫に、まだまだ手のかかる娘にも。

私っていったい何のためにここにいるんだろう。



ヒグラシが鳴いている公園を通り、空いているベンチに座った。
買い物した荷物が重たくて虚しくなった。


隣をみるとスーツを着た男の人が昼寝をしていた。

私は買ってきた袋の中からロールパンをひとつ取り出した。


「それ、ひとつくれませんか」

スーツの人はそう言って私が食べているパンを指さした。

何この人って思ったくせに、私は迷いなくロールパンをひとつ渡した。

「俺、先週リストラにあったんっすよ」
「え?」

「人生ってわかんないもんですよね。一応一流っぽい大学でて、ま、そこそこの会社に就職して結婚だって考えていたんです。あぁ俺の人生もこのまま普通に幸せにいけるかな?なんて思ってたんですけどね。」

「普通、って何だって思います?」

「この世に「普通」っていう言葉必要ありますかね?」

「普通に生まれて、普通に育って、普通に学校に行って、普通に勉強して普通に就職して、普通にリストラにあった。”普通”っていえば、なんだって普通になるんですよね。こうやってあなたにもらったこのパンもおそらく、普通のことなんです。運命とかそんなだいそれた事じゃない」

「それなのに、リストラ宣言されたとき”なんで俺が、”って急に普通じゃない人生に足を踏み入れた感じで、自分の人生をすべて否定しに走ったんですよ。あの時、違う会社に行っていれば、いや、あの時もう一浪して希望大学にいっていれば、あの高校の文化祭で彼女に出会っていなければ、ってね。そもそも生きている意味なんかないんじゃないかって、全否定したんですよ。俺の人生普通じゃないって」

彼の目の前に鳩が2羽やってきて、彼はロールパンを少しちぎってあげた。


「でね、昨日結婚を考えていた彼女が言ったんですよ。”普通ってなに?”ってね。俺は普通は普通だよって、俺、今無職なわけでだから結婚なんてしたって普通に幸せにしてあげられないんだって。そしたら彼女が言ったんです”幸せになるために私たちは結婚するの?幸せかどうかなんてあなたが決める問題じゃないでしょ?普通に幸せってなんか変だよ”ってそういうんですよ。どう思います?幸せが普通だって俺、思ってたんですけどね、逆にこそ全否定されちゃったんっすよ。」

彼の前の鳩が少しずつ増えていき、彼はロールパンをあげつづけながら話していた。


「俺ね、彼女と結婚することにしたんです。というか、逆プロポーズされたんっすけどね。彼女がね、”あんたの幸せなんてどうかわかんない、それに私はあんたに幸せにしたもらいたいなんてこれっぽちも思ってない。ただ、私は君といるとご飯がおいしい。何を食べてもおいしいから。それだけでいいと思った”って。俺、その時、あぁ俺は幸せなんだって思ったんすよ。」


彼は、ポケットからタバコを出して火をつけた。そして立ち上がると目の前の鳩たちも一斉に飛び立った。


「ごちそうさまでした」

彼が去ったあとのベンチにタバコの箱がおいてあった。

「わすれものですよ」

「あぁ、それ、あげます。パンのお礼。」
「俺、これから面接なんっすよ。じゃ。」

箱の中に4本だけタバコを残して彼は行ってしまった。



洗濯物が風に泳いで気持ちよさそうだ。
彼の面接はうまくいっただろうか。


「さて、掃除しなくちゃ」

タバコの火を消し、残り3本になったタバコの箱を、私はゴミ箱に捨てた。




曲からストーリー。YouTubeで動画や音楽を聴いていると目に浮かぶ物語ありませんか?
いつもなんとなく考えていることが音によって物語にすり替わる時。

私は今朝「ローマの休日」を見ていました。アン王女と新聞記者のジョーの強い思いの物語。すべてが夢のような現実のような。

その流れで行きついたこの曲。ローマの休日に浸っていた私の脳からこの物語がやってきました。

PJさんの曲からストーリー。
このおもしろさ、はまりそうです。



休みん俳勝手に企画が始まっていますよ。
さぁ、次はどんな勝手に企画がやってくるかな??



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