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手をとって

木漏れ日の中を歩く。

あの日のことを思いながら。

小さな手を優しく握ったあなたは

「ごめん」

ひとこと、そう言った。

わたしはきっと、彼を謝らせてしまう、そんな表情をしてたんだ。

そんなこと、なんでもないって

まるごと大事だよって

思っていたけど、思っているけど。



「まだ、はやかったかな」

言葉は黄昏に溶けてゆき、

寝息を立てる温もりを背に

銀杏並木を数えて歩く。

時おり力のこもる、肩口の小さな手に

自分の手を重ねて、軽く握り返すと

すれ違う車が、ヘッドライトを灯した。



終わりなのかな。

変わらず優しい。

変わらず愛しい。

何も変わってないけれど、何か違う。

終わりなのかな、そう思う自分が哀しい。



行ってくる。

手を振る。

振り向いてまた

手を振る。

これでいいのか?いいわけないよな。

目を逸らしたいけど、逸らさないよな。

もう心から笑ってないよな。



終わろう。だけど。



小さな手をひく僕の前に、たくさんの荷物をかかえた君が立っていて、

あんまり君が重そうだから、持ってあげるよと手を差し出した。

ありがとうと言った君は、荷物をすっかり僕に差し出すと、当たり前のようにそっと

小さな手を君の手で包んだ。

どこまで運ぼうかと僕が問うと、

そうね、あなたのところまでと君がいう。

思わず足が止まった僕の袖を

導くように伝わる力。

小さな手が僕を引いている。もう一つの手は、君の手をしっかりつかんだままで。



もうどのくらい待ったかしら。

きっともうすぐ来てくれる。

約束はしてないけれど

きっとわたしを見つけてくれる。

きっと変わらない優しい声で

きっと変わらない愛しさをくれる。


あなたをまるごと好きなの、と

差し出した手を握ってくれた。

そうね、あなたのところまで

わたしを連れて行ってくれる?

応えてくれた小さな手を、わたしも優しく握り返す。


さあいこうよ、いっしょに。

街には、すっかりと神の祝福が溢れている。


【企画】才の祭参加作品です


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