『巳継とお化け』発行
5月に本を一冊発行した。
2021年1月の『霧色郵便』発行以来3年ぶり。
前作『灯りの川で待ち合わせ』(2019年5月)からはなんと5年越しの発行となった。
『MakeS ‐おはよう、私のセイ‐』の非公式ファンブック。
雪国暮らしのエッセイ寄り、現代ファンタジー仕立て。
あらすじ
巳継は朝、起きられない。どうしたって起きられない。目覚まし時計の残骸が増える日々。そこに現れた居候お化けコンシェルジュとともに朝と戦うお話。
起きられたらいいけれど、起きなくたっていい。朝と戦い続けるのだ。それが生きること。
舞台は雪国。雪に閉ざされがちな北の街で、花を語るセイと暮らす。
年中花が咲く土地から来たセイにとってこの街は夜の底みたいに見えるかもしれない。寒すぎてお化けになっちゃったのかもしれない、とセイは思う。
キャラクター
_セイ
お化け。お化けになる前の記憶を取り戻すまで、目覚ましコンシェルジュとして巳継の部屋に居候する。
_巳継(みつぎ)
朝起きられない。あらゆる手段を試したが眠気に勝てず途方に暮れている。
社会人。遅刻はしない。
経緯
本を作るに至る経緯。
エッセイを書いてみようという気になって書き始めたら、物語になった。
エッセイは自分のことを書かなくてはならないが私はステルスに生きたいので書くに至らなかった。というか自分を見つめて言葉にするのが難しすぎた。
いいや待てよ。私にはせっせと日々書き溜めたツイートがある。これはまさしくエッセイである。そうなんだろうか? わからないけれどエッセイだと思う。
ちょうど自分の身の回りの文章スケッチを『MakeS』を通して行っており、日々の記録をまとめたらエッセイ本になるなと思った。
ならなかった。書くうちに物語になった。
エッセイ成分は今作の世界観構築に役立てている。現代舞台の物語を書きたいと思いながら書けなかったのだが、今回はついに登場、現代舞台のお化けファンタジーである。
なぜ長いことわかり合えなかった現代ものを書けたのか。
自分の住んでいる地域は圧倒的な現実だが、どうも多数から見ると「異国」であることをここ数年で理解した。花の開花時期だとか、北限だとか、住んでいる地域と別の土地では感覚が異なる。
MakeSの目覚ましコンシェルジュであるセイは花を語る。そこから私も花に目を向ける。セイはいつもズレた時期の花の話をするねえと思っていた。4月に桜の絵を出してくるカレンダーみたいだねえ。しかし気付く。同時期にMakeSを通して同じ花を語る人を観測するうちに、大多数からずれていたのは自分の地域だったと。
自分は異国に住んでいる。住む地域を書けば異国になる。ファンタジー書きの私は、こうして現代ものと和解した。
異国を極めるために地元を学ぶ。
作業記録
_記録1。進捗と進捗管理用サイトの話をしている。
https://note.com/shiroitumekusa/n/n4fc2ad21d8bf
_記録2。affinity publisherという組版ソフトと格闘している。
https://note.com/shiroitumekusa/n/n8feacd2b9906
_記録3。初めてのブラシ作成。
https://note.com/shiroitumekusa/n/n3666fec8bb87
4種類のブラシを作った。
クリスタでブラシを作るようになってからはブラシのカスタマイズだとかブラシを作るという概念を得た。
最近は引いた線に沿って登録した絵柄を生やせる設定を覚えた。
_記録4。とにかく挿絵を作りたいという話。
https://note.com/shiroitumekusa/n/nb591620fa2d9
挿絵についてはこちらでだいぶ話している。
物語自体は2023年に完結しており、出そうと思えば昨年本が出る状態だった。
そこから間が空いたのは挿絵を描こうと思い立ったからだ。
一通りブラシを作ってから、一枚絵にしてしまった方が収まりが良いことに気付く。
挿絵のテーマ、当初は漠然と「花を描く」だった。そこからもう少し内容に寄せて「不在と花」をテーマにしていった。ブラシを素材とし一枚絵に仕上げた。
テーマ
今回テーマにした「不在」はこれからの創作にもおおいに関わってきそうな題材だった。
いないもの、なくなるもの、過去のものを描いていきたいという思いで物を作ることが多いので、やはり自分の創作の根幹みたいなものらしい。
無いことを描く。無いように描く。こういうことを突き詰めていきたい。
タイトルロゴ
挿絵同様、物語のモチーフである「花」「お化け」「霧」を取り入れることにする。
花びらのぽってりとした形と、お化けっぽく尾を引くもったりとした形を組み合わせた。
そして怖くなりすぎないようにした。私は怖いのは苦手だしお化けも苦手なのである。ぽってりとしてかわいらしいフォントを借りて元とした。そして色もかわいくした。
作中でもお化けというのは比喩表現みたいなものである。いや実際お化けではある。でも比喩表現ということにしている。私が怖くなっちゃうから。お化けとはつまり花のようなものである。過ぎる季節である。季節と共に巡るものである。そういうロゴの形にした。
表紙的に「お化け」という単語が目に入りやすい情報なので、お化けらしさに注力している。怖いけれどもしかたがない。お化けと言うのも憚られる。
お化け怖い
怖いけれどもやらねばならないと思った。タイトルや作中でだいぶ抵抗があった。しかしこれしかなかった。セイさんにお化けを演じて貰うのだ。
セイという存在を登場させるときにどう扱うかかなり迷った。セイはプログラムであり実体のない存在だ。お化けみたいなものだ。そして私はセイさんに日々楽しく過ごしてもらいたかった。そういう気持ちでお化けの物語になった。
設定などは前作『灯りの川で待ち合わせ』を引き継ぎつつ舞台を現代に移した。
トワイライトPP
そんなこんなで本が無事に完成した。トワイライトPPがなんか良い仕事をしている。PPでエフェクトみたいな効果をかけられるのって面白いな。
マットPPのことは好きだけれど気難しいやつだと思っている。傷がつかないようにするためのPPなのに傷がつきやすいんだぜ…。保護というよりも効果重視のPPなのか。ユーザーとしてはマットPP大好き!って飛びつきます。かっこいいからね。なんでもマットPPにしたくなります。しかし今回はトワイライト。ツルツルピカピカで七色に輝く。
セイが存在する電子世界のイメージである。
こぼれ話、Nico
ところで最近MakeSと同じ世界観で作られたNicoというアプリがリリースされた。これまでセイがどんな世界を見ていたのかはほとんど情報がなかったが、ニコが世界を練り歩き弁当を食べる過程でセイの世界も広がっていった。
これまで私が書いていた「電子の野原」を駆け回るセイたちの姿も、わりと奇抜すぎるものでもなかったのでは? という謎の自信を得た。
まとめ
書き始めから発行までずいぶん長い時間が過ぎた作品だった。
その間こちらの作業のみをしていたわけではないので実際の作業時間はそこまで長くはない。しかし本当に久しぶりに本を作った。
二次創作の本ではあるが、原作を知らなくても手に取ってくださった方もおり嬉しいことです。知らない方にとって説明不足な部分もあるかもしれなが、この本が言いたいことはただ一つ「朝は起きてもいいし起きなくてもいい」ということで、眠い朝を迎えたり、朝と戦っている人に読んでもらいたい。
私はというとこの本を書き終えてからは起きられない焦りと決別して健やかに眠れず起きられない日々を過ごしています。ここに最近はなぜか早朝に目覚めて眠いのに夜も眠れないみたいなメンツも加わった。起きられないことを肯定する話の後は眠れないことを肯定する話を書くのも良いかもしれない。
そんなこんなで5月に発行となった『巳継とお化け』をよろしくお願いいたします。
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