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二階から机が降ってくる中学校に通っていた思い出

 友達の新居に遊びに行ったとき、中学校のそばを通りかかった。私はきれいなガラスが大きめにはめられている校舎を見て思わずつぶやいた。

「わりやすそう」

 友達から返ってきたのは、笑い声と同意だった。

「そうだよね?! やっぱりそう思うよねぇ」

 聞けば、実際にこの中学校に通っていた友達の夫は、私と同じような友達の感想にひいていたらしい。

 友達と私が通っていた中学校は、少しだけ荒れていた。

 定期的に窓ガラスがわられては、体育館に集められて全校集会をおこなったものだった。バイクは走らなかったが、自転車が廊下を走っていた。やんちゃな男子生徒の中でも特に目立っていた子は途中でいなくなり、三年生になる頃にはいつの間にか戻ってきていた。卒業アルバムの撮影を校庭でしていたら、二階から机が降ってきた。中学校へ戻ってきたその子が、抑えきれない衝動を机にこめて放り投げたらしかった。

 生徒も少々やんちゃだったが、先生もそれなりだった。そんなに体罰がさかんな時代ではなかったのに、校門で朝練をさぼった生徒を顧問がとっつかまえて殴る場面に遭遇したときもあった。人が殴られるところを見せられて、朝から嫌な気分になった。

 私はそんな中学校で特にそういった出来事にはまきこまれずに過ごしていたが、ある学年で初めて同じクラスになった女生徒に突然からまれて閉口した。授業中、私がさされて発言するときや、私が何か学級委員長になるような場面があると、いちいち苦言を呈してくる。それがあからさまで、担任教師すら困惑していた。

 いったいなんなのだ。

 私が不快と疑問を感じている一方で、いつのまにかその女生徒の態度は軟化していた。彼女が後に私へ吐露したのは「勉強ができるから嫌な奴だと思っていたけど、そうじゃなかった」という言葉だった。私は頭が悪そうなみためをしていたので馬鹿にされがちで、そのことに悩む場合の方が多かったのだが、勉強ができる認識をされてもろくな扱いを受けないのだと学んだ。

 それでなくとも中学生は思春期でエネルギーがありあまっている時期だし、田舎の公立中学校はそれこそいろんな生徒がいた。私は人とかかわるのが得意な方ではなかったけれど、成績のよさで面倒な人間関係や授業中の居眠りを免除されていたように思う。中学校にいる間は文字どおり夢の中にいたので(文集にいつも寝ていると書かれた)、そんなに思い出が多いわけではないが、それでも中学校時代の記憶は時々鮮やかに蘇る。

 卒業式で、虎の刺繍の入った長ランを着ていたあの子は、今何をしているんだろう。中学校を出てすぐに働いたジャニーズ顔のあの子は、成人式で会ったときは会社がつらそうだったけど今は元気でやっているんだろうか。私も今めちゃくちゃ会社つらいから今なら共感できそうだ。学校で極太のピアス穴をあけようとしていたあの子は、今はどんなおしゃれをしているんだろう。母親になっておしゃれどころではないだろうか。

 教室で眠られないといけないくらい体力のなかった私なんかより、エネルギーにあふれたあの子たちの方が、力強く人生を歩んでいそうだな、ととってつけたように思いながら、雨に濡れると真っ黒になる汚い校舎に思いを馳せる。汚かった校舎は、改修されて今はもうない。

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