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ラベルを捨てて生きてみたら。 《とみさん インタビュー・後編》

YouTubeの歌まね動画で絶大な人気を誇る、"カメレオン・シンガー"とみさん。インタビュー後編では、音楽を好きなままで続けていくにはどうしたらいいのか、ともがく葛藤の半生を伺った。


●歌まねにどうしても振り切れない自分

ーーとみさん、ご自身のYouTubeに人が来る理由の一つを「本家がアップしてないから」とおっしゃってましたが、そうであっても似てないと嫌になると思うんですよ。
でもとみさんの歌は、もう嫌になっちゃうくらい似ていて(笑)。コメント欄にも「うますぎて笑いました」とか「歌まねを超えている」などの賞賛コメントが並びますし、どういうポリシーで動画をアップされてるのかを伺いたいなと。

音源に忠実に歌おうというのは心がけてますね。そのための練習もかなりしてます。
初期の頃は、そこの意識が低かったんですよ。でも、コメント欄を見ていたら「僕のことを知らない人も見に来る」ってことに気付きまして。そのアーティストのファンの方が聴いた時に、いい加減だと嫌な気持ちになっちゃうと思うんですよね。なので、そこはかなり意識を変えてきたと思います。


ーーシンガーって自己表現として歌われる方が多いですが、とみさんは聴く人の側に目線を合わせるんですね。だからこそお聞きしたいんですが、歌まねの世界で極めようとは思われなかったんですか?

それは一度もないですね。いわゆる歌まねをしようとする時って、どうしてもそのアーティストのクセをちょっと大袈裟に表現する必要があるんです。そう求められるからなんですが、僕はどうしてもそれができなくて。

ーーだからこそとみさんの存在価値が唯一無二になってるんだ…。歌まねの人だけじゃなく、アーティストの方でさえ、円熟してくると歌い方のクセが結構強めになるじゃないですか(笑)。音源通りに生歌を聴くことが叶わなくなってしまうので、だからこそとみさんを聴きにくるという人もいっぱいいるんだと思います。

僕はある意味カメレオン・シンガーというか、ニーズに合わせて気持ちをはめ込むことに、ある時期から吹っ切れてはいます。他の人ができないことをやってるんだ、目の前の人が楽しんでくれるならどこでも行こう、と思うようにしてますしね。
自分の芯も大事ですけど、あまりこだわり過ぎてみんなが楽しくなければ、それはいらないなと思うようになりました。昔はもっとトゲトゲしてたんですけどね(笑)。

ーーその、自分の芯と、目の前の人を楽しませたいという思いの両方が、とみさんの絶妙なバランスを生んでるんですね。


●tripleTという奇跡のプロジェクト

ーー私がとみさんの歌まねをものすごい価値のあるものだと感じたもう一つの理由に、「tripleT」という非常に珍しい活動をされてるのがあるんです。この話を伺ってもいいですか?

もちろんです。

ーーtripleTというのは、イニシャルにみんなTの付く方々、とみさんと、CHAGE and ASKAの大ヒット曲「SAY YES」や「YAH YAH YAH」のアレンジを手掛けられた十川ともじさん、それから「はじまりはいつも雨」や「PRIDE」の編曲家として著名な澤近泰輔さんのお三方(現在は「+E」として、チャゲアスのメガヒット期を支えたベーシストの恵美直也さんも参加)によるCHAGE and ASKAへのリスペクトバンドですよね。

ーー十川さんと澤近さんは編曲家であると同時に、'80年代からチャゲアスのバックバンドとして彼らのサウンドを作り上げたキーボーディスト達でもある。こんな夢のようなメンバーとバンドを組まれてるのが驚きです。

tripleTというのは、「オリジナル通りに演奏する」というコンセプトをそもそも十川さんが持っていらして、オケを本当に緻密に完コピで再現されるので、僕もCD音源の歌を忠実に再現することを意識してやってます。

ーーチャゲアスファンの方、それからおそらく音楽界の方々からも、あの二大編曲家が参加してチャゲアスの楽曲をプロの技術で再現していくという、まるでバーチャルのようでいてリアルでもあり、良い意味でよくわからない、どう理解していいのかわからない活動として注目されていると思うんです。ぜひ、これが始まった経緯を教えて欲しいのですが。

はい。これはどこから話したらいいのかな…(笑)。

ーー情報が渋滞してますよね(笑)。企画者は、十川さんですか?

そうです。まず僕と十川さんの出会いから話した方がいいかな。たぶん’15年くらいだったと思いますが、十川さんが僕のYouTubeを見て、連絡をくださったんですよね。色々お話しするうちに、まずはオリジナルの楽曲を作って世に出していこうとなりまして。

ーーそうだったんですか! そんなミラクルがYouTubeを通じてあったとは。

僕としてもこれは新しいチャレンジで、すごく嬉しかったんです。十川さんからも、とみさんの活動ペースとか色んな状況を変える必要はない、そのままでやってみよう、と言っていただけて。それだったら頑張ってみようかな、と始まった活動でした。
でもある時期まで行くと、そういうものは捨てていかないと、という葛藤が生まれるんですよね。これは当然です。十川さんは音楽業界で長年しっかりお仕事をされてますし、僕よりもずっとよく業界のことをご存知ですから。
でもそれが、やっぱり僕にはどうしてもできなかったんですよね。自分の中で決めてる部分があったので、そこはしっかりと十川さんと話し合って「ああ、わかった」と言っていただけて。そういう経緯があって、十川さんとは今の関係に至っている感じです。


ーーそうだったんですか。これって、普通に考えれば夢がありますよね。YouTubeの動画で、神様とまで思っていたチャゲアスのアレンジャーさんが発見してくれて、一緒にお仕事しようなんて。そしてとみさんの専属プロデューサーみたいに活動してくださっていた時期があったと。

十川さんの中では、ありがたいことに音楽仲間として捉えてくださってますけどね。こうやってtripleTのような活動にも誘ってくれて、お仕事も今でも振ってくださるのは本当にありがたいことで。
いつだったか、何かの時に「僕ととみさんが友達になったのは…」って話されてて、あ、友達だったんだ! と(笑)。


ーーお歳も随分違うのに(笑)。そういうフラットな精神性を十川さんが持っているからこそとみさんの気持ちを大事にしてくださって、tripleTのような活動も生まれたのかもしれませんね。

澤近さんも恵美さんも同じ雰囲気を持ってらっしゃるので、本当に素敵だなといつも思っています。


●真ん中に出ない人たちとの音楽

ーーそれにしてもtripleTの活動って、利害を考えていくとすごく難しいことをやってらっしゃいますよ…。もしかするとファンの方々からの賛否両論を生みかねないと思う時も。
もちろん純粋に音楽を楽しむ方の方が多いと思いますが、一方でチャゲアスが活動していない中で、何を周囲でやってるのかという意見も、出てきておかしくないですね。
でもそれを気にして才能のある人達が出来ることを抑えていたら、何も生まれないですよね。そこまで承知で、ちゃんと未来を見据えて活動している皆さんの勇気ってすごいと思う。信念がないとなかなかできないです。

これは面白いんですけど、tripleTって皆さんすごいプレイヤーの方々なのに、真ん中に行こうとしないんですよね。僕は位置として真ん中で歌ってるんだけど、心は聴いてくれてる方たちと同じ方向を向いていると思っていて。メンバー全員、聴いてくれる方達と一緒になってチャゲアスを振り返ってるんです。

ーーセンターにいるとみさんですら前に出て来ないというの、伝わってきます(笑)。ちょっとでもこの活動でうまくやろうという気持ちがメンバーの中にあると、成り立たない活動ですよね。

本当にそうだと思います。僕もある時期ちょっと迷って、このままtripleTはどうなっちゃうんだろうと思った瞬間があったんです。30代半ばに経験した、嫌なゾーンを思い出してしまって。
それですぐに十川さんに「僕たち、どこに行こうとしてるんでしょうか?」って聞いたんです。そうしたらすぐに僕の気持ちを察してくださったのか、「いやいや、楽しんでいこうよ、この活動は」とおっしゃってくれたんですよね。それが聞けてすごく安心したのはあります。


ーーもう、目頭が熱くなりますね…。私がtripleTが表現する音楽に感じていることは、「真ん中であるチャゲアス本人達が不在なのに、なぜかそこに浮かび上がってくる」という奇跡なんです。これは、確かな技術を持っているミュージシャンが集まらないとできないことで、しかもそれぞれエゴイスティックなところがなく真ん中をポッカリ開けているからこそ、本人達の温もりを感じる。それによってリスペクトとして成り立っているんだな、と。

恵美さんが、「とみさんの歌声はタイムマシンだ」と言ってくださったことがあって。この言葉ですごく楽になりましたよね。ああ、tripleTはそういう活動なんだ、御三方も楽しんでるんだ…と理解したし、僕がボーカリストでいる意味もわかったので。また、いいタイミングがきたら集まるんじゃないですかね。

ーー音楽を楽しもうという気持ちだけが純粋に集まっているからこそ、生まれる音楽や感動というものが、確かにありますね。これ、言うのはたやすいけど形にするのは本当に難しいと思いますよ。
とみさんのこれまで大事にしてきたものが、紆余曲折あったけれど、ここにまっすぐつながっているのかもしれませんね。


●音楽業界、そして父親を乗り越えて

ーーそれにしてもとみさんは他の人とは全く違う、すごく絶妙なラインを歩いて行かれてますよね…あ、失礼だったらすみません。

大丈夫です、自分でも絶妙だなと思ってますよ(笑)。

ーー良かった(笑)。もう、お話を通じてなぜそうなるのかは薄々わかってきてるんですが、ぜひ言葉にしておきたくて。とみさんがそこまでこだわるのは、やっぱり「継続していきたい」という気持ちがあるからですか?

それはありますね。前にも話しましたが、父も音楽業界で昔からやってるので、音楽ビジネスがどういうものか何となく知ってましたし、そこにどっぷり浸かって自分が続けていけるとはあまり思っていなかったんです。
もちろん、そうしてかないとプロじゃないというのはあります。でも、そうしなくても感動させられる音楽ってあるんじゃないかと、僕は思っているんですよね。別に一つのやり方だけじゃなくて、そこを目指す道があってもいい、ということかな。


ーーいわゆる王道のやり方でなくとも、自分の信じたやり方で歩けると証明していきたい、ということですね。

若い頃は、音楽業界の先輩たちに「こうした方がいいよ」と言われるとそんなもんかなと受け入れちゃうんですけど、もう40歳を過ぎてくると、どんな人生にしたいのかという個人の選択だと思うんで。
だから僕は今、自分はこういう音楽の道を選択した、と堂々と言えると思ってます。「普通はこうでしょ」と言われたら「僕は普通じゃないのでこうしたいです」と、今は堂々と言えてるんですよね。


ーー「普通じゃない」と腹を決めたことは、大きな転換点になりますね。とみさん、お父様と仕事もしてらっしゃって、ご家族ですごく仲が良いそうですが、とみさんがそこに疑問を持ったことが、もしかしたら唯一の反抗期ではないかとも思いました。

ああ、そうかもしれないですね。反抗期とちょっと違うかもしれませんが、「とみのお父さんは業界人だから、すぐデビューできるんでしょ?」と昔は周りによく言われたんですよ(笑)。どうせそういう道が用意されてるんだろう、と。
そこにものすごく反発した時期があって。父が作ってくれる道を全部蹴ってた時期がありました。自分でやるから、と。
多分そこに乗ってずっとやってたらメジャーデビューできる道もあったかもしれないんですけど、そうやって他の人が作ってくれた道では、自分で飽きて辞めたくなったり音楽を嫌いになったりしたかもしれないなと思って。
なので、そこは自分の選択で合ってたんじゃないかなと思います。このことは父にも伝えてますしね。

ーーそういう話を親子でできるだけでも、本当に素晴らしいことだなと思いますよ。


●ラベルを捨てて生きてみたら

ーーとみさん、すごく優しい人であるのがこうやってお話していて感じられるんです。

いやいや、そんな(笑)。

ーーその一方で、優しい人って、爪をどこか隠そうとしてるんじゃないかと私は思っていて。反骨だけだと、集団の中では潰されてしまいますよね。なので和を大事にして優しくなるのかなと。すごく柔和なとみさんだけれど、中には反骨心、燃え立つものがきっとあるはずだと思うのですが、どうでしょう?

そうかもしれない、合ってると思いますよ。

ーー若い頃から、これはとみさんに限らずですけど、周りはどんどんラベルを貼ってきますよね。野球少年、バンドマン、プロ、アマ、成功してる、してない、と。
ラベルって便利ですけど、「自分自身で生きていかなきゃ」ってこんなに思っているのに、周りがそう思ってくれないと怒りや寂しさも生まれますよね。そういう感情がとみさんの中にあるのかな、とも。

それも、あったと思います。

ーーとみさんが貼られてしまったラベルってなんだろう、とお話しする前に考えてたんです。「YouTubeの人」や「歌まねの人」かな、と。でもそれよりもっと前に、「コネのある人」「楽して成功する人」というラベルが貼られたんだというのは、話してもらわないとわからなかったので驚きました。これは反発の原点になるだろうなと。

うん、もしかしたらなんですが…YouTubeで登録者数が増えてたくさんの方に応援していただいたり、そこから十川さんと出会って色々チャレンジできていることなどは自分自身の力で切り拓けたことなので、すごく満足感がありますし、ここでやっと父親に答えを出せたのかな、とも思いますね。
時間がかかったけれど、良かったなと思います。堂々と仕事の話で、今は父親に向き合えてるなという気持ちです。


ーー本当に良かったです。音楽業界っておそらく今は激変期で、これから壊れるところは壊れていくだろうし、ますますYouTubeのように独立した収益構造で個人も活動していく流れが強まるはずで。
その中でとみさんは、きっと音楽を好きって気持ちでずっと続けていけるんだろうなと、なんだか希望を持てます。これからの世の中、頭脳とハートの両方が必要だと思うので。これまで芯を持って純粋に続けてきた人達の時代が、きっと来ますよ。

来ますかね(笑)。今年はオリジナルの楽曲を出す予定なので。ちょっと変わってくるのかな、という気はしてます。
あと、ありがたいことに、これからファンクラブができるらしいんですよ。


ーーそれはすごい! とみさんの良さをわかってる人たちは、きっと横でつながって魅力をシェアしていきたいですよね。ぜひともこれからも応援させてください。

ありがとうございます。

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とみさんとのインタビューを終えた後、不思議な爽やかさにしばらく包まれた。
夢を諦める40代は多い。これから夢を抱こうとしても、色々な壁が立ちはだかることだろう。

それでも、自分に貼り付けられたラベルの中に縮こまることなく、純粋な気持ちのままで生きていく自由は、誰にでもあるのではないか? そこに飛び込むか諦めるかは、自分次第なのではないか?
とみさんと話していて、そんなことを思った。

今日もとみさんは、郵便配達のバイクに乗っている。
夜には仲間と集まって次のライブの準備をし、YouTubeを通じてネットの世界へ音楽愛を届ける。

街行く人達の誰もがそうやって、好きなことを好きなままで生きていても「普通」だと思ってもらえる時代。
とみさんは少し先にそこへ飛び込み、一つの小さな希望の道を作ってくれているのかもしれない。

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  • インタビュー・前編はこちら

  • 2023年4月3日 配信楽曲

  • とみさんYouTubeチャンネル

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  • オフィシャルサイト

  • とみさん Twitter


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