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長崎屋の記憶

1997年4月に大学入学と同時に見知らぬ街のアパートで独り暮らしを始めて、早くも半年が過ぎた頃である。
11月の小春日和のある日曜日午前中。
住んでいるアパートの最寄り駅から電車に乗って2つ向こうの駅で下車してみた。
駅名は誰もが聞いたことのある少しばかりか有名な駅なので、以前から一度は行ってみようと思っていたのだ。
駅を出てみると、予想していたより小さな町であった。
駅前からはどこの街にもありそうな商店街が続いており、アーケードを散策してみることにした。
片側1車線の車道の両側に商店街が立ち並んでおり、歩きながらどんなお店があるか眺めていた。
しばらくすると、どこかで見たことあるような風景が目に飛び込んできた。
商店街の個人商店が並ぶ中、突如奥行きのあるアーケードがあり、その奥に長崎屋が店を構えていた。
特徴がある風景だったので、間違いなく一度昔に来たことのある場所だと確信した。
それと同時に幼少時の記憶と共に楽しかった思い出が蘇ってきた。
長崎屋店舗の入り口に繋がるアーケードは、自転車置き場も併設されていて、間違いなくここで待ち合わせをしたのを覚えている。
ネットで調べてみると昭和57年3月に開店したということなので、私が物心ついた頃には存在していた店舗ということになる。
そこで他にも別のヒントがあることを期待し、長崎屋の店内へ入ってみた。
しかし普通の長崎屋であり、他の手掛かりは掴めずに店を出ることになった。
ただ長崎屋を出てからも、なんとも言えない懐かしい気持ちに包まれたままで、商店街を歩き続けた。
すると再び見覚えのある風景に遭遇した。
今度もやはりどことなく記憶にある場所で、アーケードの中にあったゲームセンターだ。
子供の頃よく家族や従妹のおねえちゃんと一緒に来た場所だったのだが、何のゲームをやっていたのかまでは思い出せない。
ただここも間違いなく昔来たことのある場所であることは間違いなかった。
その後も歩き続け、何度も似たような体験を繰り返した後、私はようやく気づいた。
この辺り一帯は私の幼い頃に一時的に住んでいた街なのだと。
そして、それは今大学生になって住んでいるアパートからそんなに遠くない場所なのだということを。
あの頃の思い出が次々と蘇ってきて、心が満たされた。
自分の幼年期に育った街を再確認できただけで十分満足した気分になった。
だが、それと同時に寂しさを感じた。
今の私にとって、あの頃過ごした街は遥か遠い過去なのである。
もう戻れない故郷…
そう思うと無性に切なくなった。
あの時に戻りたいと思っても戻れるはずもなく、悲しく虚しい気持ちだけが残った。
いつかまたこの町に帰ることができるだろうか?
今はわからない。
ただ一つ言えることは、二度と戻ることのない故郷でも、今でも変わらず愛しているということである。
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