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掌編小説

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2022年1月の記事一覧

【掌編】背徳のエンドロール

「あ、この子見たことある」 君がそう呟くと同時に僕の心臓が跳ね上がったのは、画面に映るその女優があずまいちごだったからです。 一話完結のミステリードラマ。冒頭に起きる殺人事件にて、あずまいちごは被害者の女子大生役で出演していました。 「えーっと、誰だっけ」 犯行が終わり場面が切り替わっても、君の気がかりは消えません。「なんか違う作品にも出てた気がするんだけど」。目線を上げ、記憶を辿るような素振りを見せます。 まさか、そんな。 平静を装いながらも、僕は困惑を覚えます。

【掌編】ぺこらま

ぺこらまを探す旅を続けている。 幼少の頃からなので、もう数十年になる。これまで方々を尋ね求めたが、ついぞそれは見つからない。 人はそれをどこにでも存在するもの、と言う。 また、気がつけばそこにあるもの、とも。 だがしかし、見当たらない。少なくとも私の側には、ぺこらまのぺの字もない。なのでこうして当て所ない旅を継続している。 そもそも私自身、ぺこらまがどのようなものであるか、具に理解していない。よくわからないものをよくわからないままに探し求めている。それ故に旅の意義を見

【掌編】赤と白、それからオレンジ。

母と腕を組んで、買い物へ出かける。 元旦から営業しているスーパーは乏しく、駅前まで足を伸ばさなくてはならない。足腰の弱った母と連れ立つとなると、相応の時間を要する。三十センチに満たない歩幅で、ずりずりと一歩、また一歩。青信号の時間を目一杯使い、横断歩道を渡る。 「かまぼこが無いの」 そう母が騒ぎ出したのが、朝の六時。私も弟も布団から飛び起き、それを諫めた。なくてもいいではないか、と言っても聞かない。弟がネットで調べ、駅前ならば午後からやっているというので、こうして出向い