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掌編小説

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2021年11月の記事一覧

【掌編】パラレルワールドは失せて

「もし僕が宇宙人だったら、どうする?」 いつもの食卓、いつもように君が作ってくれた料理を前に、いつも通りに二人手を合わせ「いただきます」と唱えた後で、僕はそれを放り込んだ。 「え、何?」 予想通り、君は怪訝な顔をする。予想通りなので僕は驚かない。味噌汁の椀を持ち上げ、口へと運びながら、続ける。 「もし、だよ。そういう並行世界に身を置いたと仮定して、どうする?」 「どうする、って何を?」 「そうだな」味噌汁を一口。美味い。「このまま予定通り、僕と結婚する?」 ぱちくり

【掌編】君に贈る火星の

「ご趣味は」の問いに、男はひとつ息を吸って「化石です」と答えた。 曰く、休みの日になれば山や海岸に赴き、土を掘り石を割り勤しんでいるとか。 お見合いなんて前時代的なイベントと思っていたが、さすがにそこまで太古の時代に思いを馳せる準備はしていなかった。 汗と泥にまみれて余暇を過ごすなど、自堕落な私の生態からはほど遠い。まるで火星人と相対しているかのようである。 「実は、今日この話をするかは迷いました」 長々と、半ば呪文のようだった男の話が、そこだけ鮮明に入ってきた。