マガジンのカバー画像

掌編小説

77
掲載した掌編小説をまとめています。
運営しているクリエイター

2021年9月の記事一覧

【掌編】火花

無数の火花が空から降ってきました。 一筋の光が伸びてきたかと思うと、宙空でそれは炸裂し、全方位に火の粉を撒き散らします。一回きりではありません。何度も、何度も繰り返し。闇夜に沈みかけた街中、突如として起こったそれに、人々はパニックに陥りました。 爆撃機でも飛んでいるのか。そう思い目を凝らしても、それらしい影は見当たりません。轟音と共に飛び散る火花に照らされた、雲の姿が映るだけ。そもそも、爆撃なら地面を直接狙うはず。降り注ぐ火の雨は確かに危険であるものの、攻撃とみなすにはあ

【掌編】ボタン

妻が出て行ったため、独り洗濯物を干している。 洗濯かごの分量も少なく、私一人分。物干し竿に取り付けたピンチに、下着や靴下、ハンカチを吊るしていく。ピンチ全体の重心が傾かぬよう、満遍なく配置しなくてはならず、下着を干すにもかようにコツを要するものか、と感心する。 「今更?」 妻がいたなら、そう罵られてしまいそうだ。 いかに家のことを任せきりだったか、窺い知れるというものだろう。今後はこれも私のタスクとなる。逐一、感心してなどいられない。 続いて、シャツ類へ。皺を伸ばし、裾