マガジンのカバー画像

掌編小説

77
掲載した掌編小説をまとめています。
運営しているクリエイター

2021年6月の記事一覧

【掌編】歯車

小学三年生の時分、一度だけ歯車になったことがあった。 居残りをして遊ぶタイプではなかったので、その日も真っ先に帰宅。母親は買い物にでも出ているのか、留守だった。誰もいない家のリビングでスナック菓子を摘んでいると、電話が鳴り出した。 受話器を取り、姓を告げる。十中八九、セールスか何かだと思っていたので、「母はいません」と答えるよう、口が準備をしていた。 「おう。雄太か」 父親だった。まだ勤務先にいる時間帯だ。わざわざ電話をかけてくるとは、何か緊急の要件だろうか。 「お