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掌編小説

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2020年10月の記事一覧

【掌編】形容動詞はまだ早い

中学一年の頃、急に学校へ行けなくなってしまった。 特にいじめに遭っていたわけでも、人間関係にトラブルを抱えていたわけでもない。何がきっかけかはわからないが、突然に、同級生のひそひそ話や、担任教師の叱り声、果てはチャイムの音までもが耳につき、終いには吐き気を催すようになった。制服に着替え、登校しようとすると、アラートが鳴るようにお腹が痛くなる。無理矢理外に出て、横断歩道の真ん中でふらつき倒れ、顎を三針縫う怪我をした。そこで初めて親も本気になり、その日から学校は「がんばっていく

【掌編】星と新米

東京駅の新幹線ホームは、いつもながら喧騒に溢れていた。 乗車口を開け、客が乗り込むのを待っている車体の駆動音。その上に、行き交う人々の足音や話し声が層をなし、さらに車掌のアナウンスや発車のベルがトッピングされている。その騒がしさでできたパフェを突っ切り、私は待ち合わせ場所まで足を急がせていた。 桐原さんはすでに到着していた。梅雨も近づく暑さの中、きちんとジャケットを羽織って、ネクタイも締めている。ビジネスバッグに加え、小さめのキャリーケースを携えていた。 「おはようございま

【掌編】カエデ、22時。

ぼくがねむるのはいつも、とけいのみじかいほうのはりが「9」のあたりをさしたころです。 そのすこしまえぐらいから、おかあさんが「はみがきをしなさい」、「トイレにいきなさい」とうるさくなるので、じっしつてきにはそのあたりからぼくのじゆうはうばわれます。 ほんとうはもっとゲームをしたりしていたいけど、おこられるのはこわいから、だまってぼくはしたがいます。 おふとんはぬくぬくで、いつもぼくはすぐにねてしまいます。 きがついたらもうあさで、こんどは「はやくおきてごはんをたべなさい」