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ずっとご機嫌に生きていくなんて無理な話

その人は、途端によく喋るようになった。

「やっぱ夫婦の間の違いってストレス積もっていきますよね〜私の夫は全く家事とかできなくて。結婚するまでずっと実家で面倒を見てもらっていた人だから、なんにもできないし、多分それでもなんとかなると思ってるんです。誰かがやってくれる的な。」

僕は基本誰かとおしゃべりするときは話すよりも聞くほうが居心地がいいので、たくさん喋ってくれる人だとそれはそれで安心する。

眉毛を整えてもらっている。明後日はとある撮影をしてもらうため、顔面は一定整えておかなければならない。別段自身の顔に自尊心を抱いているわけではないと思っているが、基本的に自分の顔が写っている写真や映像は嫌いだ。そういう意味では自己意識が強いのだろう。

そのくせ顔のケアを怠ってきたので、こういう機会だからと思い切って予約してみた。受付にいるときは静かなセラピストさん(?)だったが、いざ施術が始まるとトークも一気に加速しだす。

「めっちゃ喧嘩してたんです〜最近はむしろ諦めちゃってるんですけど、ほんといろんなところでイライラが溜まっていくんですよね。」

僕の父と母もよく喧嘩している記憶が強い。家族仲が悪いわけでは決してなく、今でも家族は大好きなのだが、よく喧嘩していた。リビングのゴミ箱を床に叩きつけ、3バウンドさせていたこともある。そういうときは実家の犬も自分のハウスに逃げ込んでキリッと正座をしながら、でも不安そうに眺めていたのを覚えている。

夫婦仲がうまくいっていればいいのだが。僕もわりと喧嘩というか、対立というか、そういうものは多い。中身が似ていない。だからこそ面白いし助かるのだが、日常生活の衝突も多いのだろう。

ご機嫌は損ねたくない、でも自分の気持もわかってほしい、そんな要らぬ期待を拗らせるのだが、拗らせているだけでは世界は一寸も変わらない。ギャップだけができていく。なんとかしたいのだが、どうにも自分のひん曲がったものはなかなか治すのが難しい。

もはや夫婦生活はこれまで行きてきた人生の数倍は続くのかも知れない。そうなると、いちいち夫婦喧嘩うんぬんを心配している場合ではないのかも知れない。相手や自分のご機嫌をお伺いしていても、もはや自分の手ではどうすることもできない。

さっきまでるんるんと機嫌が良かったのに、ものの3分もすれば京都タワーから飛び降りてしまいたい気分になる。気分や感情をコントロールしようとしたところでどうにもならない。一定基準までは構っていられないものだなと最近は思う

ほったらかさず、感情や思考を認めて打ち消すことなく、でも乗っ取られはしない。どんな修行を積めばいいのかわからないが、人類が到達すべきはそこなのではないかとさえ思う。数十億人の人類と、数多の哺乳類と、未確認の菌類、とにかく「自分とは違う」もので溢れかえっている世界で、ず〜っとご機嫌で生きていくなんて無理な話。

もはや感情にいちいち構っていてはどうしようもない。明日の約束だって、3分後の隕石衝突でパーになるかも知れない。だからといって「運命の奴隷」になるのも違う気がする。

さてどうしたものか。眉毛を引っこ抜かれて、くしゃみが出そうになる。

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