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戦隊屈指の異端児『王様戦隊キングオージャー』のファン論争について真剣に考えてみる

はじめに

本日2024年2月25日(日)、スーパー戦隊シリーズ47作目『王様戦隊キングオージャー』が最終話を迎えた。

昆虫がモチーフ、メンバー5人全員が王様という設定、「LEDウォール」という巨大LEDパネルを活用した特殊な撮影手法、性別不詳設定のメンバーの存在、スピンオフ漫画のWEB連載、「僕」が一人称のレッド…などなど、長いシリーズの歴史の中でも初の試みが多く存在する、まさに「挑戦作」と言うべき作品だ。

番組としての評価はどうかというと、

・「ネット流行語100 2023」 にて作品名が第3位にランクイン
・トンボオージャー(ブルー)の口癖「スカポンタヌキ」がSNS流行語大賞にノミネート
・シリーズ初の「#YouTube流行語大賞」にノミネート
・公式X(旧Twitter)のフォロワー数が11万人を突破し、シリーズ歴代1位に
・X(旧Twitter)にて、世界トレンド1位を複数回獲得

などなど、これまでの戦隊シリーズが成し遂げられなかった数多くの功績を残している。

そんな輝かしい表舞台での活躍とは裏腹に、本作はシリーズを長年追いかけている、いわゆる「いにしえの特撮オタク」たちからの評判がすこぶる悪い。

かく言う私もそんな「いにしえの特撮オタク」の中の一人であり、今作が最終話を迎えた今、「一家言申しておかにゃならん!」と思い立ちこうしてブログを書いているわけだが、最初に表明しておくと、私は決してこの作品のアンチではない。
税込22,000円する「オージャカリバー-MEMORIAL EDITION-」も予約したし、むしろそこそこのファンの部類に入ると思う。

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▲2024年5月31日 23時まで予約受付中だぜ!

ただ、ニチアサ実況を生きがいにしており、TTFCで何度も作品を見返し、プロデューサーや監督や脚本の顔と名前がわかるレベルのオタクになってしまった同士の皆がこの作品を批判している感想も痛いほどよくわかる。
言ってしまえば「心が二つある」状態なので、自分自身の気持ちの整理も兼ねて、この続きを書いていこうと思う。

よくある批判例

本作がオタクたちから叩かれる理由の筆頭として、玩具販促を放棄していることが頻繁に挙げられる。
これまでのスーパー戦隊シリーズでは、1年通して販売するメイン商材である巨大ロボの活躍を見せつけ子供達の購買意欲を刺激するために、ロボ戦がほぼ毎週当たり前のように存在していた。
尺が足りないときは番組終了残り数分で巨大化した敵を合体後即必殺技だけ撃って撃破したり、等身大戦で締めたいときは番組冒頭にロボ戦を持ってきて普段と話の構成を入れ替えるなど、さまざまな製作側の努力と工夫が見られていた。

それに比べ、今作における巨大ロボ「キングオージャー」の出番は後半ではかなり削られており、1ヶ月まるまるロボが出てこないこともあるなど、戦隊シリーズとしては常識破りとも言える番組づくりをされていたのである。

一般的なドラマやアニメとは異なり、子供向け特撮ヒーロー作品は「玩具の販促番組」としての役割が非常に大きい。視聴率よりも玩具売上が重視されることもあり、玩具が売れないと番組の作風が路線変更されることも実際ある(たいてい悪い方向に変わる)し、最悪の場合はシリーズ自体の存続が危ぶまれる。
そういった裏事情を知るオタクほど販促の放棄とも言える作風に危機感を抱き、批判意見を声高に叫んでいるのである。
※特にスーパー戦隊シリーズは近年玩具売上が低迷しており、最新の決算では全国放送ではない&半年しか新作放送しないウルトラマンに玩具売上が負ける事態となった。

とはいえ上記の事情を理解したうえでも、個人的には「販促できていない」というのは、(スポンサーや関係会社が批判するのならまだしも)視聴者側が槍玉にあげるべき問題ではないと考えている
そもそも販促が云々なんて問題は、作品が売れないと自分たちの生活に影響する製作側が一番理解しているはずだし、「それでもこの作風でいく」とGOを出したものが放映されているのだから、我々がその決断を批判するのはお門違いではなかろうか。

なぜこのような決断をしたのかは定かではないが、おそらく「番組としての質を高めること」を優先したからではないかと私は思う。
語弊があってはいけないので先に補足すると、「ロボ戦があると質が下がる」と言いたいわけではない。実際、ロボ戦をうまく物語に組み込んだうえでの面白さを実現した素晴らしい作品も多数存在している。一方で、ロボ戦を組み込むと人間ドラマを描く時間は物理的に減るし、シリーズ全体でみると特に大きな見せ場も物語上の意味もなくノルマのようにロボ戦を消化する回も少なくないというのもまた事実である。ロボ戦になると興味を失ってチャンネルを変えるライトな視聴者だってきっといるだろう。

そう考えると「今作ではロボ戦の優先度は下げ頻度は減らすが、そのぶん人間ドラマや等身大戦に時間と予算を使おう」とする戦略自体は、(これが絶対的に正しいわけではもちろんないが)ひとつのやり方としてはアリだし、実際にこれまで戦隊シリーズを見ていなかった新規視聴者層を多数獲得できた、というのは「はじめに」であげた実績からも見てわかる。

そもそも「戦隊=玩具の販促番組」という考えすら一側面的であり、もしかしたら戦隊シリーズ自体の認知度が徐々に低下する中で、今作は「視聴率」や「視聴者数」を最重要指標とする方針に切り替えたという線もなくはないだろう。(これまで有料配信しかやらず頭の固いイメージのあった東映特撮が、今作からTVerでの配信に振り切ったのも興味深い)
というわけで、「販促していないからこの番組はクソ!」という主張は、一見すると番組制作の事情を理解しているように見えはするものの、個人的にはあまり芯を食っていない発言のように思う。

それはそれとして急に感情論になるが、ロボ戦を削って生まれた今作の等身大戦のほとんどが、通常攻撃である程度ダメージを与えたら敵がそそくさ退散する or 巨大化するシーンばかりで、ヒーロー番組らしい「スカッと感」がほぼ無かったのはとても残念。
次作はちゃんと、ド派手な必殺技を決めて怪人をカッコよく撃破する描写を見せてくれ〜〜〜!!!

ちなみにもう一つ批判されがちなポイントをあげるとすれば、本作のラスボスであるダグデドの舐めプである。
自らを「宇蟲王」と名乗り、その気になればいつでも星を丸ごと滅ぼせる力を持っているのに、最終決戦になってもなおその力を最大限発揮することなく、キングオージャーの軍勢に押されていく。
そんな描写が大きなノイズになってしまって、「せっかくこれまでの登場人物総登場の奇跡の最終決戦がイマイチ盛り上がらなかった」という意見をSNS上では何度も見かけた。

ただ、この批判もあまり芯を食っていないように思ってしまう。
特撮が好きだからこそ言うのだが、そもそも特撮自体がご都合主義の塊のようなジャンルであり、
・なんで変身中・名乗り中に攻撃しないのか
・なんで変身前に襲撃しないのか、基地や拠点を襲わないのか
・なんで変身解除させたあとに命を奪わないのか
・なんでいきなり必殺技を使わないのか
・なんで敵幹部全員で一斉に侵略しにこないのか
・なんで日本にしか敵が出ないのか
などなどの疑問にすべて完璧に答えられている作品など存在しないだろう。(もちろん個々の疑問について、うまく理由づけしている作品はある)

というか特撮に限らずアニメでもゲームでもドラマでも、「よく考えたらおかしくね?」という粗の部分は多数あり、普通はそれら全ての違和感を「作品に対する好感度」がうまく補正してくれているのである。

なので「ダグデドが舐めプしているから、この作品は面白くない」ではなく、正確には「この作品が面白くない(=気に入らない)から、ダグデドが舐めプしている粗が気になる」という因果関係が正しいのではないだろうか。

では、この『キングオージャー』という作品に対して、「どこか面白くない、ノリきれない」と思ってしまう本当の理由とはなんなのだろう。

この気持ちは一体…

これはキングオージャーを見た全員の意見を集約したものではなく、あくまで私の個人的な所感かつ仮説に過ぎないが、「掲げているテーマが非常に大きいわりに、描写が伴っていないこと」が、本作に対する複雑な気持ちを形成している要因かもしれないと考えている。

具体的に言えば、作品前半では人間とバグナラクという異なる種族の差別問題をテーマとして掲げ、「二つの種族がともに手を取り合う社会の実現を目指そう」という言葉が出ていたにもかかわらず、バグナラクは後半になっても依然「やられ役」として再利用され続けるいびつさがその筆頭にあたる。

グローディの手で便利な兵士として蘇って暴れるのは百歩譲って仕方ないにしても(色変えはしてよと思うが!)、第34話の王様たちが指名手配になる回で王を捕らえようとしたバグナラクが普通に爆殺されたのは擁護不能である。王様狩りをしようとした普通の人間は特に罰せられることもなかったのでその時点で対応に差別があるのはもちろん、爆殺までせずともゴッカンに収容するとかいくらでも描写できたはずである。極め付けは、バグナラクを爆殺した五人の前に「お疲れさん」とニコニコで出てくるジェラミーである。
これを書いているだけでも「あんたバグナラクの国の王なんだから、もっと悲しそうに弔ってやるとかせめてそういう…!!」という感情が湧いてきてしまった…

またそのジェラミーの側近であり、改心したバグナラク怪人のゲロウジームの出番が番組後半にはほぼ無いというのも非常に残念。
バグナラクも宇蟲王の被害者として受け入れる、差別を無くす、という大きなテーマを掲げているだから、バグナラクがジェラミーや他の人間との絆を深め、人間のバグナラクに対する差別意識が薄れていく描写はもっと必要だったのではないだろうか。

また、もう一つ大きなテーマとして「国王と民の信頼関係」というものが掲げられていたと思う。その証拠に、番組最終話では「戦地に集った大勢の民が自国の王様を信じて自らその命を預け、その力によってダグデドを打ち倒す」という展開になっている。

しかし、国王と民の絆や信頼関係についてこの作品で描かれたことはかなり少ない。第3話などの例外もあるにはあるが、むしろ民はゴローゲを筆頭にすぐに敵の言葉に左右される衆愚として表現されてしまうことが多く、この番組の放送時間の大半は国王とその側近の間の「既に出来上がった関係性の再確認」に充てられていたように思う。(広い意味で言えば側近も「民」ではあるのだが、そういうことじゃなく…)

『仮面ライダーW』や『仮面ライダーフォーゼ』の劇場版でもこれまでの登場キャラクターがヒーローに力を与えるという展開はあったし、今作最終話でもLEDウォールの合成の力もあり絵面の迫力自体はあった。
ただ、先述のヒーローが徹底した「地域密着型」で、風都という街に住む住人や、天ノ川学園高校の生徒たちと多数交流してきたのに比べると、今作は明らかに描写が足りていない上に「国全体(地球全体)」にまでスケールだけは広がってしまっているため、絵面には迫力があっても実が伴っていない印象を受けてしまうのだ。

この「主張していることに対して実が伴っていない」と思う感覚について、個人的にデジャブを感じたことがある。
それは学生時代にいた、「スクールカースト下位の人間をナチュラルに下に見ているのに、『クラスの団結や絆の大切さ』といった綺麗事を平気で謳うエセ優等生」だ。

青春を普通に謳歌している大半の同級生や、一歩引いた目線の教師などは彼の口から放たれる言葉を額面通り受け止めて称賛するし、批判するにしてもせいぜい「意識高い系」とちょっと揶揄するくらいである。
しかし、クラスの隅っこでじっとしている陰の人間はその言動の薄さをどうしても肌で感じとってしまい、彼の振る舞い自体にはそこまで人格的な問題がなかったとしても必要以上に嫌ってしまうのだ。

いま『王様戦隊キングオージャー』で起こっているファンの意見の分かれ方もこれに近いものがある…というと、どちらの勢力にも攻撃しているようで怖いが、実際それに近い現象が起きているように個人的には思う。

少し余談になるが、この「言っていることに対して、やっていることが伴っているか」という観点において、前作の『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』などは「完璧」と言って差し支えないと思う。言ってしまえば、50話かけてメインキャラクターたちのコメディチックな「日常」を描いただけで、世界の危機など大きなスケールの事件が起きることも特になく、ラスボスに至っては忍者を目指して修行するその辺のおじさん、という異常な作品ではあった。ただその積み重ねが、「人と人との小さな縁の大切さ」「人の気持ちがわからない主人公が人間を知っていく」という作品の掲げるテーマ性と非常にマッチしており、結果全体として満足度がとても高い作品に仕上がっていた。

もちろん『キングオージャー』にも良い点はたくさんある。
さんざん文句を言ったストーリーについても、個人的には王様5人がヒルビルに静かに怒りを露わにする第29話なんかは特に好きだし、全体を通してアクションも世界観の作り込みも戦隊シリーズ屈指のクオリティだと思う。

しかし前述の通り「言っていることの身の丈に合わなさ」がかなり気になってしまう作品ではあるので、一つの作品を解読するように深掘りして味わいたいオタク気質の人間にはオススメできない。
一方で、作品のテーマや制作陣の意図などをあまり意識せず、刹那的にテレビの前で物語を消費し、「楽しい」「カッコいい」というポジティブな感想だけを周りに共有しているタイプの視聴者にはとてもオススメできると思う。(オタクばかりのTLを構築していると見失いがちだが、こういうタイプの視聴者のほうが世間では圧倒的に多いのだ)

なんだか批判しているのか擁護しているのかよくわからない感じになってしまったが、いま起きている賛否くっきり分かれたSNSの異常な様子についての私なりの考察は以上である。
全体的に失礼なことしか書いていないが、1年間楽しませてもらったのは紛れもない事実なので、とりあえず制作に携わった皆さまには感謝の意を示したい。
あとはこの増えた視聴者をどう次の『爆上戦隊ブンブンジャー』に繋げていくのか、少子化のこのご時世でファンにお金を落とさせるビジネスモデルをどう構築していくのか、古参オタクらしく後方腕組みで見届けたいと思う。

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