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『三本の糸』 第二回 中村福助・児太郎の会 <白梅の芝居見物記>

 3月27日、東京国際フォーラム・ホールCにて、第二回中村福助・児太郎の会が開催されました。
 会場自体が大きいのでどんな舞台になるのかとは思っていましたが、自主公演の枠を越えた、かなり大がかりな公演となっていました。
 観劇後気がついたのですが、文化庁の子供文化芸術活動支援事業の参加作品だったようです。

 「生きる」というテーマで、福助丈、児太郎丈が数年にわたり温めてきた企画とのことですが、実際の準備期間は1年半くらいと確かSNSでおっしゃっていたかと思います。
 短い準備期間の中、自主公演とも言える舞台でここまで意欲的で大がかりな作品の上演を実現されたことに、まずは敬意を表したいと思います。
 4月13日から一週間ほどの間、配信もあるようです。
 舞台とはまた違った作品世界になっているかもしれませんが、一見の価値はあるかと思います。

 荒削りですが、物語性を重視し登場人物一人一人に見せ場をつくっているので、お二人を中心に据えてはいますが、ひとつの作品として十分通用する可能性を感じさせる仕上がりであったと思います。
 2回の上演で終えるには惜しい面もあるように思われました。
 ただ、その分作品の芯となる脚本に私としてはかなり不満が残ってしまったというのが正直な感想です。

 久保田創氏の脚本は、14回もの書き直しの末出来上がった物とのことで、かなりの労作でるようです。
 河竹黙阿弥の「三人吉三」の世界を中心に因果応報譚を物語りの骨格に据えたことに、まず無理があったように私には思われます。
 様式的に練り上げられた古典演目としてならまだしも、新作として今の世の中に因果応報譚をテーマとして取りあげるのであれば、黙阿弥からかなり離れた視点から試みないと陳腐なものになってしまうように私には思われました。

 犬公方と言われた将軍が夜鷹に百両の金を渡して生ませながら捨てられた子が、善良なる庶民を無差別に殺戮していくという設定は、おそらく権力者は常に悪でありそれに虐げられる庶民という単純化した考え方が根本にあるのではないかと推察されます。
 その上勧善懲悪を物語の柱にしているため、殺人鬼と化した人間の中にうずまく劇的葛藤も、殺人鬼に狙われた家族やその家族が殺人鬼と対峙していく劇的展開の必然性も表層的に描かれるだけに終わってしまい、脚本的な弱さが露呈してしまったように、私には感じられました。

 そのため、当初の最大のテーマであったであろう「生きること」「生き抜くこと」の大切さを天津神に語らせることが、物語の展開と必然的な結びつきを持つことが出来なかったのは、誠に残念でなりません。

 脚本的には、かなり不満が残ってしまったのですが‥。
 歌舞伎を見慣れた見物にとっては、まだ未熟さが目立つ舞台ではありましたが、それを越える躍動感や熱意が感じられる舞台であり、関わった方々全員の誠意が溢れていたのが、見る者に満足感をもたらしたと感じます。

 この作品は、歌舞伎でないものを作ろうとしたとの意図が当初あったようですが、「三人吉三」の世界を用い、児太郎丈が二役とも女方を演じたことにより、芝居自体も歌舞伎役者がやった方が、面白さが増したのではないかと思われる面がある芝居となっていました。
 歌舞伎の舞台でさえ存在感が大きくでる児太郎丈が、女優の中で一人女方を演じるのですから、その存在感が全体のバランスの中で浮いてしまった面は気の毒でもありました。
 それでも前半は面白さもかわいらしさもある面が光っていましたが、後半三つ子の他の二人に比べ一人アウトローとしの面が強く出てしまい、他の二人とのバランスにおいても違和感が出てしまったことは否めませんでした。

 中村福助丈の天津神としての存在感、神々しさは別格でした。
 その他、中村しのぶ丈が存在感を発揮していたのが大変印象に残りました。

 芝のぶ丈の昨今の活躍により、今まではスポットが当たらなかった役者さんに対してもスポットをあて、抜擢とも言える役を付ける風潮が歌舞伎界にも出てくるようになり、それは決して悪いことではないと私も思います。
 ただ、芝のぶ丈は確かな実力によって抜擢を受けているのであり、脇を固めていらっしゃる時でもきちんとした芝居をしてらっしゃるのを拝見するにつけ、ただ抜擢すればいいというものではない、役者の研鑽があってこその抜擢ではないかと、思わされることもあります。

 話がそれましたが、今回の役どころも、若い役者さんを中心にした座組の中で、芝のぶ丈は芝居に重厚感を出すのに大いに貢献されていました。
 魔女というより予言者的な役どころとも言え、この登場人物を今以上にうまく用いることにより作品にさらに深みを出すことが出来るのではないか、と思わせられるほどの人物に仕上げていらっしゃいました。

 この作品の大きな見せ場として、立回りの躍動感が光っていました。
 殺陣の安田桃太郎氏がやはり魅せており、刀剣乱舞の舞台経験が生きているのでしょうか、中村莟玉丈の身のこなしのキレが印象に残りました。

 脚色演出が市川青虎丈とのことですが、演出的な面でよくまとめられていたと思います。洋楽と和楽を舞台の上手と下手にのせ音楽性を強調されていました。洋楽と和楽のコラボレーションも違和感なくよくまとめられており、音楽的な味わいが歌舞伎に馴染まれた方も馴染みのない方にも新鮮で、理屈抜きに琴線に触れ感覚に訴えることが出来ていたのではないかと感思われました。             2024.4.6


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