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浄瑠璃姫物語と小野のお通

はじめに

 文楽(人形浄瑠璃)を愛好している方々の中でも、『浄瑠璃姫物語』に関して知っている方は、かなり少ないのではないかと思います。「小野のお通」に至っては、文楽の解説書にその名が記されることさえなくなりました。
 近世芸能や近世演劇を学んでいらっしゃる方でも、興味がわく題材ではもはやない昨今。一般の歌舞伎愛好者の中で、『浄瑠璃姫物語』や「小野のお通」という存在そのものさえ知っていらっしゃる方は、無に等しいのではないかと思います。

 しかし、これから近世演劇の奥深さに踏み込もうとしている方々にとっては、大変重要な作品であり、人物です。
 さらに、演劇の分野のみならず、戦国から近世に至る天下統一の過程を知る上で、お通を知ることは、大変重要になって来ます。

 『浄瑠璃姫物語』と「小野のお通」。
 両者の関係をさぐっていくことによって、例えば、「本能寺の変」が何故起こったか‥が、わかってきます。
 そこにたどり着くには、かなり時間がかかりますが‥
 正史では決して記されることのない、歴史の裏側がわかってくるのです。

 義太夫狂言を演ずるにあたり、登場人物の性根をどうとらえればいいのか。掴みあぐねている「声」を、歌舞伎役者さんのインタビューなどでみることがよくあります。見物も含め、そうした役柄‥という暗黙の了解の上に成り立っていることが、歌舞伎には実はとても多くあるのです。
 その中で理解できずにひっかかっている部分を、現代的な感覚で解明しようとすると、その作品を読んでいるだけでは掴みきれないことが多くなるのは、実は当然なのです。それは、暗黙の歴史的前提が欠けていることによって起こってくる疑問だからです。

 実は、近世演劇は、台帳や丸本に描ききれていない、歴史的な大前提の伝承の上に成り立っている伝統演劇なのです。

 『仮名手本忠臣蔵』
 この作品が、歌舞伎の三大名作と言われる所以は、どこにあるのか。
 私が思うに、それはこの作品そのものが優れているという以上に、演者の芸によるところが大きいのではないか。
 どんな思いを込めて役者が演じ伝えて来たのか、それがどれほど感動的であり伝承するに足る素晴らしいものであったか。そちらの方が大きいと私は思っています。

 この作品は、近世に起こった「赤穂義士の討入り」を当て込んでいますが、実際は天下統一の過程で起こった争いに関して伝承している作品です。

 歴史の裏側を、近世演劇を読み解きながら、紐解いていく。
 それは、近世演劇にとって、今までと違った視点で古典を再評価していくことにもなります。再度、スポットの当たる作品も出てくるでしょう。
 そして、演劇のみならず、日本の歴史の謎を解明し、歴史に学んでいくことがたくさん出てくるかと思います。

 そうしたことを目指すとば口として、浄瑠璃姫物語と小野のお通を、まずは見ていきたいと思います。
                       2023.11.14
 

 
 

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