カバ王国 1

アニメファンは子供のころからだ。松本零士作品などはリアルタイムで見ていたし、ガンダムは何度も繰り返す再放送を飽きずに見ていた。ちょうどブームになり、映画化もされてた頃が私の中学時代だ。

父が転勤族だったこともあり、九州からいきなり北関東にやってきたのが高校の時。公立高校の願書締め切り直前で転勤が決まってしまい、そこがどのような学校かもよくわからないまま、それまでの成績で入れそうなところを選んだ。
結果は合格。後で担任が言うには、トップクラスの点数だったという。ところが最初の定期試験は鳴かず飛ばず。何があったのかと心配されてしまった。単に私がそういうタイプだったからにすぎない。定期試験のような直前の学習内容の確認のようなテストではあまり点数が伸びないが、ジェネラルな、というかそれまでの総合的な内容のテストでは一気に順位が伸びる。
みんな、直前のことは記憶しているけど、概要のようなものは曖昧になるらしい。私はそこがしっかりしているようで、定期テスト以外ではトップクラスに入っていた。英語以外では。

中学まではあまり学校になじめなかった私も、進学校ではそれなりになじめた。基本的に地頭(じあたま)のいい連中が集まっているし、ノリの良さとかよりも成績の良さの方が周りの尊敬を集められた。自分は定期試験以外のテストではトップクラスの常連だったので、下位のカーストに入ることはなかった。

前の席の奴が、小説家志望だった。Iとしておこう。いや、これはまずい。Y.Iにするか。それもまずいな。「勇(ゆう)」と呼ぶことにしよう。何しろこれから出てくる人物のかなりの数の苗字がIで始まるし、名前もYになるやつばかりなのだ。
私と勇はすぐに友人になった。それ以降も行動が一緒になることが多かった。このグループには、クラスの中で「直(なお)」「義(よし)」「生(いく)」が加わった。彼らもみんな名字がIなのでこう呼ばせてもらう。しかも直と義は同じ苗字だ。その付近では非常に多い名字で、後のことになるが、大学入試の時の一次試験で、一教室丸々同じ苗字で埋まってしまい、うかつにもその教室内のだれかの友人がその名字で呼びかけたところ、全員が振り向いたという笑い話がある。

義と勇は写真部に入った。私は「物理部」という、実質的にパソコンクラブに入った。この時期、まだPCは普及しておらず、大手電機メーカーが思い思いに作った規格のパーソナルコンピューターが乱立していた。学校も現在のようなPC社会になることはまだ予想できておらず、コンピューターはゲーム機の延長のような扱いで、一部の教師は注目していたようだが、ほとんどはおもちゃと思っていたようだった。

物理部では他のクラスの友人ができた。やはりPCに興味を持つ奴だ。一番よくつるんだのが、やはり、Y.I。もう一人もY.I。この時点でY.Iがすでに四人出てきている。しかもこの二人は名前の方もYASUまで同じだ。しょうがないので「入(いり)」と「伊(い)」と呼ぶことにする。まるで符丁だ。しょうがない。
それとTだ。彼もイニシャルは何なので「登(と)」と呼ぶことにしよう。ちなみに伊と登も写真部に顔を出すことになる。そういうつながりで、私やこのグループのほとんども写真部の連中とつるんだ。当時、流行っていたマンガに影響されて、「光画部」などと自称したこともあった。わかる人はわかるだろう。

そうそう。この話の題名だ。「カバ王国」。当時の地元のアニメファンたちがこぞって聞いていたラジオ番組の名前だ。このグループもほとんどがアニメファンで、この番組でつるんだほかのメンバーもいる。
たまに登場するサンライズ(有名なアニメスタジオ)の人が、私のいた学校の先輩にあたる。
この番組は北関東の某県のローカル番組で、ほかの地域には電波が届いていない。だから県内のみのコミュニティができていた。
実はもうこのころは末期で、私はその最後の方しか聞いていない。それでも今までの人生を左右したといっても大げさではない影響を受けた。
(続く)

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