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公設民営施設の変革における着眼点〜適応課題とシステムの全体最適(第3回)

第2回では「コンソーシアム組織×指定管理者制度」で管理・運営される施設の「縦横の構造的困難」に対処するために「組織開発」というアプローチを紹介しました。

しかし、なぜ組織開発が有効なのでしょうか?
それは「組織をよくすること=システムを編み直すこと」と読み替えることができるからです。
今回はそんなお話です。

それは技術的問題か?適応課題か?

今一度「縦横の構造的困難」を確認しておきましょう。
一般に、このようにまとめることができます。

(1)「縦」の構造的困難
施設を管理・運営する指定管理者と、施設を所管する市(の担当部署)との間で起こる困難。
施設・事業に対する捉え方の違いが発生したり、それに伴って方針等の主導権を巡った対立が起きることがある。
(2)「横」の構造的困難
「コンソーシアム(=共同事業体)組織」内における困難。
構成団体である複数民間事業者の組織文化が互いに異なる等から、意思決定の方法や手続きが複雑化したり、感情のもつれが起きることがある。

これらはどちらも「厄介なこと」ですが、もう少し解像度を上げて理解してみましょう。

導入するのは「技術的問題(technical problem)」「適応課題(adaptive challenge)」という考え方です。
ハーバード・ケネディスクールで長年教鞭をとっていたロナルド・ハイフェッツ教授が提唱しており、組織開発の文脈でよく参照されます(参考文献を貼っておきます)。

「技術的問題」とは、既存の知識・技術で解決できる問題のことです。
問題の解決の仕方に再現性があるので、別のところで適用した解決策をそのまま当てはめることができます。

たとえば「リモートワークのために、どんなパソコンを購入すればよいのか?」は技術的問題です。
リモートワークで取り組む業務を洗い出し、それに対応した機能やスペックが搭載されたパソコンを購入すれば解決です。
「技術的問題」の場合、解決すべき問題は自分の「外側」にあります。

対して「適応課題」とは、既存の知識・技術では解決できない問題のことです。
それゆえ「こうすれば(いつでも誰でもどんな時でも)絶対にこうなる」とは言い切れないので、試行錯誤が必要になってきます。

たとえば「恋愛はどうやったらうまくいくのか?」は適応課題です。
絶対的な「こうすればうまくいく」は存在しません。
適応課題は、自分自身のものの見方や、他者(周囲)との関係性が変わらないと解決できない問題でもあるので、自分も問題の「一部」であるとされます。

今回の「縦横の構造的困難」はどうでしょうか。
明らかに「適応課題」です。

なぜなら「縦」であろうが「横」であろうが、それらの構造的困難は「関係性」に起因するからです。
個人と組織、組織と組織の関係を変化させていくことなしには解決できません。

適応課題を技術的問題と取り違えるとうまくいかない

ここで、ハイフェッツ教授は重要な指摘をしています。
それは「適応課題であるにもかかわらず、技術的な課題として解こうとすると解決できない」ということです。

これは、先の例でいえば「どうやったら恋愛がうまくいくか?(適応課題)」を技術的問題と取り違え、「この知識や技術・方法を適用すれば必ずうまくいく!」「他の人はこれでうまくいったのだから、それを真似すれば必ずうまくいく!」と解決しようとして、うまくいかなくなるということを意味します。

「縦横の構造的困難(適応課題)」の場合も同様で、これを技術的問題と取り違えると、「この方法を取り入れさえすれば市と指定管理者の関係性は必ず向上する!」「他の自治体はこれでうまくいったのだから、それを真似すれば必ずうまくいく!」と解決しようとするので、うまくいきません。

繰り返しますが、技術的問題の場合、解決すべき問題は自分の「外側」にあるとみなします。
これが凝り固まると、

「事態を厄介にさせている原因はあいつら(他者・外側)にあるのであり、我々は被害者なのだ。だから悪を正すために我々は正義を執行しなければいけない」

という思考に陥るようになります。
そうではないのです。「縦横の構造的困難」は適応課題であり、自分も問題の一部なのです。

このような認識に立つことが、組織開発を内部から実践する変革者に必要な態度であるといえます。

解決したいシステムのレベルを見極める

「自分も問題の一部である」とは、換言すると「私もシステムを構成する1つの要素である」ということです。
ここから、システム全体を健全にしていく「全体最適」の視点こそが、組織の問題を解決することにつながっていきます。

しかし、解決したいシステムのレベルを見誤ってはいけません。
前回、組織開発ではシステムを6つに区別するというお話をしました。

結論から述べれば、「縦の構造的困難」とは「組織レベルのシステム」が不健全であること、「横の構造的困難」とは「グループ間レベルのシステム」が不健全な状態であることを指します。

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出典:中村和彦「入門 組織開発 活き活きと働ける職場をつくる」
光文社新書(2015)p.67から一部抜粋

すなわち、

「市(行政)」と「指定管理者(民間事業者)」は、成立の仕方が全く異なる組織です。
これらの組織の「あいだ」で起こる困難が「縦の構造的困難」です。

そして、

「コンソーシアム(=共同事業体)組織」では、それを構成する複数民間事業者が、それぞれの組織の強みを生かせる領域で分業し、「部門」を形成する形で協働しています。
これらの部門の「あいだ」で起こる困難が「横の構造的困難」です。

これで、変革の対象となるシステムが明らかになりました。

次回は、システムをどうやって理解していけばいいのか、そしてシステムを変えるためには何に働きかける必要があるのか、というお話をしていきます。

続きます。

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