使い所なんてあるのかもわからないような、刃物、綺麗な、ちょっと上品で質の良さそうな、でも身近な泥臭ささがあって、そんなナイフを手の内にしっかりと握って、脇目も振らず、ただ一心に、濡れた砥石と刃との会話を聞いて、どうだろうか、もうちょっと身を削ったほうがいいのだろうか、それとも、いやいや、ここらで一旦一休みして、ちょっと別のところに行っていようと言ったりする、あるはずもない人間的な会話が体の中にすとんと落ちてしっくりと馴染み始めた頃に、研ぎ澄ませた自分の指が柔らかく甘い和菓子のように魅力的に見えて、研がれ泥となった雫を滴らせたナイフの切っ先をさっくりと指の腹に這わせて下ろしてゆくと、心が求めたその鋭さよりもずっと鈍く鈍な刃に、まだ先があると心踊らせ、息を吸い、静かに見下ろし、息を吐き、刃を滑らせ、しゃらりと軽やかで時たま重い音が骨を揺らしたのちに、また幾度となく刃を指に滑らす行為を繰り返していると、それを知ったぼくの友人が皮肉ったように頰を少しばかし引きつらせ、吐き出すように、楽しいかい、外に向けるべきナイフを自分に向けるのが、はっとした心が早鐘を打つよりも早くに大きく、ひときわ大きく鳴り響くと、体全体に血が一気に流れて戻ってやってくるほとばしる熱を仔細に感じて、あゝそうだ、その通りだ、寂しがり屋で臆病な私ができるささやかな自らの擁護は、こうやって、日常に特別を感じる瑣末な刃物で持って、皮を切って遊ぶくらいなものじゃないか、思う体は気だるく重く、吐く息は生温く鬱陶しさを孕んでいる、けれども、だとしても、体は機械のように、それでいて楽しげに、いつまでも鈍い鈍をしゃりしゃりと、軽石を爪で削るように、小さく、小さく、埋まることのない自傷を繰り返していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー後書きでっせ

いつ頃書いたかわからない手帳の中の手記を、そのままだしてもよかったけど、でもどうだろう、そのままだと味気がないし何より書き起こす楽しみがないなぁとか思いながら、じゃあ肉ずけじゃないけど、いろいろ足してかいてみようなんて思いながらかいた、ただそれだけのものでさぁ

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