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【短編Tale】僕は君を知っている


僕は君を知っている。
だけど君は僕を知らない。はじめましてという言葉がここまで鋭利な言葉になりうるなんて知らなかった。
ただ君と一緒に過ごすだけで、一秒一秒の時間が宝物の様に輝いていたのに、その一秒一秒の重さが僕を押しつぶそうとする。
ほんの些細なことで起こってしまった事が君を遠くした。
想いあっただけに、君が他人より遠いよ。
いっそ、僕のほうが消えてしまえば、どんなに楽だったんだろう。
そうしたら今度は君が僕のために苦しんでくれたんだろうか。
今まさに苦しんでる君に、僕のために苦しんでほしいなんて考えてしまう僕が、酷く惨めで、本当に嫌になるよ。
最初、記憶を失った君に、追いすがったせいで、君は随分怯えてしまった。
君が僕を見るその目の色を理解するたびに、心臓が握りつぶされるように痛い。
だからごめん、ごめんよ。
本当なら、君の支えにならなくちゃいけないのに。
誰よりも君の側にいてあげなきゃいけないのに。
逃げてしまう僕を、許してくれ。
もしかしたら、あと少し頑張れば、君は記憶を取り戻すかもしれない。
取り戻せなくても、少しは君と打ち解けることできるかもしれない。
だけど、先の見えないかもしれないを追えるほど、僕は強くないんだよ。
どうか、君の記憶が戻らないように。思い出してしまったら、側に僕がいないから。君を捨てて、僕はいなくなるから。
君が僕という存在を捨てて、幸せに生きる事を願うよ。
君を知っている僕自身に耐えられないから。僕は、消えます。

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この作品は別の所で最初の一文をお題でいただき、そこから書いたものです

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