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[カヌレクエスト]その2 蝋とオーブン

さて、2回目だ。当然だが失敗だ。

焼けているオーブンの中で生地が型からだいぶはみ出しているところを見て、絶望をする。今回は焼きはじめ5分で勝敗がついた。失敗とはいえ、そこで捨てるわけにもいかないし、たべたらおいしいので、失敗をみてとったら「ダーン!」とかいいながらキャシー塚本よろしくゴミ箱に捨ててる場合でもないのだ。残りの分数はただ失敗のカヌレを焼くことになる苦行ではある。

今回の失敗もおそらく、生地が沸騰するまでの時間が長すぎたことが原因なはず。頭白短カヌレ。原因についての考察は、あとでする。その前に書いて置かなければならぬことがある。「蝋」についてだ。

見事だ

日常でこんなにも蝋について考えた日々はなかった。せいぜい今までに、社長から「お見合い蝋燭」というあだ名を付けられたときに、ちょっと考えただけだ。「お見合い蝋燭」というのはだな、あまり仲良くない人にお前の頭がおかしいところをすぐに見せるなという戒めを含んだあだ名だ。つまり、お見合いのときに「ご趣味は?」と相手に聞かれて「SMを少々」と言ってしまったら、台無しだろう? お前のやっていることは少なからずそういうことだ、と諭されたわけだ。そのときに、そういえば蝋ってと調べて、融点が丁度いいから、SMに利用ができるのだとか、食べても消化されないこと、深海魚のバラムツなどは蝋の成分を多く含んでいて、消化不良で下痢を起こすので食品として流通させてはいけないと決まっているとか、植物油には溶けるが鉱物油には溶けないとかを知った。

で、蝋とカヌレだが。カヌレを型から外すために本格レシピだと蜜蝋を使う。初回は蜜蝋を入手するのはめんどうだったので、バターで代用したらバター臭かった。これも失敗のうちの一つなので。食品添加用の蜜蝋を入手した。そして、この蝋の扱いが半端なく面倒。

湯煎して溶かす。ストレンジャー・シングス1話くらい余裕で観られるくらい時間がかかる。

融点が62度ということは、当たり前なんだが62度以下だと固体になるんだ。これが引き起こす数々のトラブルがある。まず、62度は私にはギリギリ熱くて素手で持てない。たぶん天ぷら職人とか揚げ物好きご家庭の戦歴の輝かしい料理担当(コンプラOKな書き方にしたらわけがわからん。一昔まえなら「主婦」ってやつだ)とかだと大丈夫な温度だと思う。そして、こびりついた蝋を落とすのがとても難しい。液体にして洗い流したいところだが、62度以下で個体になるのだとすると、排水溝で固まってたいへんなことになるので絶対にできないのだ。そうすると、道具から蝋をきれいに取り除くことはほぼ不可能となり、できることといえば、清潔な布でぬぐって、おしまい。はっきり言うとそれは泥沼であり、水洗で清潔を保つ思想がある人間にとって非常に不快な後片付けとなる(あ。植物油に溶かし込んで拭き取ってから、洗えばいいのかもしれない)。しかし、乗りかかった船だし、蝋は300グラムもあるし、カヌレの成功は遠いので、しばらくは苦しむことにする。バターくささは許容、とすればいいだけじゃないか? バター塗ってはちみつ塗って、という有名な代用レシピがあることはわかっている。

湯煎して途中まで溶けたところ

それはさておき、蜜蝋を溶かし型に流し込み、まんべんなくつけた後にのこりの蝋を次の型に移動させる。蝋がついた型はひっくり返す。ここで問題だ。ひっくり返した型には分厚く蝋がつき、このままカヌレを焼いたら、バラムツをたべたときと同じ現象が起こるだろうというくらいの量になっている。62度以下で個体になる物質はさっさと個体になる程度には、空気は冷たいのだ。どうしたものかと思ってgoogle先生にきいてみると「網にひっくり返してのせて、熱々にしたオーブンにぶちこんで蝋をおとせ、網の下にオーブンシートをしいておくのを忘れるな! 溶けた蝋は冷えたあとオーブンシートからはがして再利用」とあるのでそうした。すると、型にうすい蝋の膜ができる。成功。しかし、とても熱い思いをした。軍手を買おう。カヌレまじで金かかる。

そして、頭白短カヌレの原因だが。ひとつには生地がまだ冷たかった可能性がある。これはただのうっかりだ。ふたつめは、蝋引きをしてしまったので、型の外側についているのや、溢れた時に蝋が天板に垂れるのがいやなのと、予熱ができたときに、8個の型をちまちまとオーブンにいれて庫内の温度を下げたくないので、金属製の皿(タルト皿)に乗っけて一気にオーブンにいれたのだが、その皿を熱々にし忘れたことがある。いやまじで、それくらいの原因であってほしいと思う。

鬆(す)は入っているが頭の方は生焼けっぽい。さらに焼き足す気力なし。あとで魚焼きグリルとかで焼いて食べればいいと思った。でももうそれはカヌレじゃない。

実は、問題はうちのオーブンにあるんじゃないかという疑念がある。なにせ、2003年製造当時12000円くらいのターンテーブルがぐるぐる回る方式のオーブンレンジだ。どの焼き菓子を焼いても、レシピの分数より15%くらいマシマシにしないと焼き上がらないし、焼きムラがどえらい。よくこのオーブンでおやつの本の編集をしたときに試作をしていたと思う。だから、オーブンレンジ、買い時じゃないか? とまで思っている。半導体の値上がりと円安とインフレを考えると、いま買っておかないと1万円くらい高いやつを買う羽目にならないか? え? カヌレのために?

普段は棚の中にしまってあるのだが、その棚が熱を逃せない構造になっているので、お菓子を焼くときはカウンターに出さねばならないがそんなことは問題ではない。

今回の記録:
210度20分
180度40分
170度10分
※それでもやや生焼け
※なぜ前回考えた温度でやらなかったのか謎

次回こそ:
230度25分
170度45分
※ポンコツオーブン(PO)を考慮して、分数を延長。
※POだとしても180度で45分だと焦げる。