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「私の春を奪ってよ」


 なかなか投稿ができずにいます。詠み人知らずです。

 さて、前回の記事で、私の初体験などもろもろを包み隠さず書きました。男性とも女性ともお付き合いをしたとあるように、私は恐らく純粋なストレートではありません。バイセクシャル寄りのストレートだと認識しています。色々な女性とも関係を持ちましたし、女性相手でも気持ちの良い肉体関係を持ちましたが、靴の中に入った小石のような違和感があったため、このような認識です。

そもそもなぜ私が女性とそういう関係を持ち始めたのか、自分の性自認はどういうプロセスを経たのかの記録です。

この記事の作成にあたり、快諾してくれたAちゃん、ありがとね。


アクイレギアの関係

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 女性同士の恋愛や性交渉を「百合」と表現することがある。私達の間に咲いた花は、百合なんて純真なものではなく、きっとアクイレギアだった。アクイレギアが咲いていたのは、中学生の春ごろだった。


 当時、クラスの女子では手紙を回すのが流行っていた。私も例にもれず、授業中じゃなくていい話を小さなメモ帳に書いては折り畳み、友達に回していた。よくつるんでいた彼女――Aちゃんは私の前に座っていたのもあり、頻繁にやりとりをしていた。気になってる男の子の話、遊びに行く約束、美味しいスイーツのある店。休み時間に話せばいいのに、私達だけの会話という特別感は、思春期女子の柔らかい心をわしづかみにした。


数学の授業中に回ってきた手紙は、薄いピンクのメモ帳だった。

「私の春を奪ってよ」

私は思春期の多感な頃、うっすらとした予感と「いや、まさかそんなわけはない」という願望にも似た思いが交差した。

「どういう意味?w」

「次の授業、サボっちゃおうよ。」

私はそれ以上を返せなかった。数字や記号の音は耳を抜けていき、シャープペンシルはトントンとノートの隅をたたくばかりだった。


 10分休みに入って、私は半ば無理やりAちゃんに手を引っ張られて教室を出て、女子トイレの一番奥――他の個室よりも広い所に一緒に入った。春を奪ってよ、は想像通りの意味だった。始業のチャイムが鳴っても、私たちはトイレを出なかった。

「どうして急に?」

「あなたが好きだから。私の一番をあげたかった。」

本当は、もっと違う理由があるんじゃないのと言いかけたが、Aちゃんは懇願するような目で見て来た。とてもじゃないが、そんな顔をされていたら春なんて奪えやしない。少し話そうか、とトイレの個室で相対した。1mもない距離で、手紙じゃない私達だけの時間をすごした。Aちゃんが今まで辛かったことをぶちまけてくれた。自身のセクシュアルをまだ受け入れがたい状態であったこと、私が他の男子と関係を持って悲しかったこと、今の時間の授業の先生が嫌いなこと、本当は私と関係を持つのも怖いこと。

私は聞きながら、自分が思ったより冷静で、全くドン引きしていないことに気付いた。「大丈夫だよ。」「私は引かないよ。」と心の底から言えた。むしろ、ピュアな感情を豪速球で投げられたのが嬉しかった。この個室にたどり着くまで、きっと彼女は絶大な勇気をはらってくれただろうから、その気持ちに少しでも誠実でありたかった。


 しばらく話し込んで、「急にごめんね。怖かったよね。」と涙をぬぐいながら笑ってくれた。私は笑いながら「びっくりしたけど大丈夫。」と言った後、三割は相手の気持ちを受け止めたいという理由から、残りの七割は自分のセクシュアルについてもっと知りたいというエゴから言葉をつづけた。

「私でいいなら、Aちゃんの春を奪わせて。」

言い出した本人なのに、鳩が豆鉄砲を食らったような顔のお手本を見せてくれた。その後二人で笑いあって、キスをして、肉体関係を持った。

私は一方的な愛を向けられながら、Aちゃんを抱いた。



枯れたアクイレギア


 一度肉体関係を持ってから、何かが変わったということは無かった。むなしいほどにいつも通りで、Aちゃんは私が抱いたことをきれいさっぱり忘れてるのではないかと思った。いつもの女子グループで、好きな男子の話もした。Aちゃんは5組の男子が気になると言っていた。貼り付けたような笑顔だった。


 中学3年生から高校生になる手前の、夜の近い夕焼けのような時期に、Aちゃんが遊びの誘いをくれた。たった二人の時間を過ごしたのは、あの春の日以来だった。

「あの時はありがとね。真剣な顔で、私の話を聞いてくれて。」

「なんてことないよ。」

「私ね、本当に詠み人ちゃんのこと好きだったんだ。でも、あの日無理させちゃったなって。私達壊れちゃったなって。」

「あれくらいで壊れるわけないじゃん。」

「うん。そう思う。でもね、私は壊れてほしかったんだ。次の日、あまりにも普通に話しかけられたから。特別になりたかったけど、無理だったから。それに私が詠み人ちゃんのこと好きだったの、多分『一番あぁいうの聞いて引かなさそうだったから』だと思うんだ。だから、ごめんね。利用しちゃって。友達でいてくれて、ありがとね。」

Aちゃんの懺悔を聞いてから、しばらくはお互いに無言だった。私が乙女を殺した時よりも、あの春に咲いたアクイレギアの記憶の方が強烈に記憶に残った。



記事作成にあたり


 私がnoteを始めるにあたり、Aちゃんとのあの日を書きたいと伝えた。私の過去の清算と、なんとなくこれは忘れてはならないような気がしたから。Aちゃんは二つ返事で「いいよー!」と返してくれたあと、少し経ってから言葉をつづけた。

「私達、バカだったよね。」

「そうかな?」

「無駄な時間ではなかったよ。私にとっては、生まれ変わっても忘れたくないくらいの記憶だもの。でもそれはそれとしてバカだったよ。」

「そうだね。百合なんて綺麗なものじゃなかったよね。」

「アクイレギアのような関係だったよ。」

「なにそれ。」

「花!花言葉調べたらわかるよ!」


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