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暗黒日記Z #11 「一時停止」

久しぶりにシャマラン映画を観てよりしっかりとしたシャマラニストになるために何としてでも『アンブレイカブル』を観なければとの思いを強くした。何なら『シックス・センス』も一番重要な部分のネタバレを読んでしまっているくせに映画自体は観ていないので早く観なければいけない。

あの人の映画は、私がこれまでに観てきた限りでは毎度毎度必ず気持ち悪い作品に仕上がっている。無論これは褒め言葉だ。わたモテのうっちーの言う「きもい」と同じくらい愛しかない賞賛のセリフとして使っている。

M・ナイト・シャマランという人の撮る映画は、いつも絶対に違和感を感じる要素だらけなのである。今日観たのは『ヴィジット』という2015年の作だったが、筋としては、親が豪華客船でクルーズの旅に行っている間、それまで一度も会ったことのない祖父母の家に預けられることになった姉弟が、そこで数々の奇妙な体験をするというものになっていた。それだけならありがちなホラー映画にしかなり得ないだろうが、姉弟の父は二人が幼い頃に家庭を捨てていること、母と祖父母の間には確執があり、15年もの長い年月一度も会っていないこと、といった要素が絡まってくるおかげで、ただ恐怖を生み出すだけに留まらず、人間の心の闇についてもさりげなく描かれる傑作に仕上がっていた。しかしそうした工夫も結局は恐怖の質をより良いものにするためだけに施されたことだったのかもしれない。エンターテイメントとしての楽しさを徹底的に追求した結果でしかなく、それ以上の意味を読み取るのはただの深読みであるようにも思わされる。それがシャマランの食えないところである。だからこそ信頼できるのではあるが。

何せ、私は創作に対して必要以上にプライドを持っている輩が苦手なのだ。自分の作る物がまるでとてもとても価値のある物であるかのように語る手合いが。創作のプロセスを、自らがいかに天才肌であり凡人とは違うのかを自慢するみたいに嬉しそうに話している様子が見られたりなんかした日には虫酸ダッシュ不可避である。

だから、人を食ったような軽薄とも思える姿勢で、さも大したことはしていないし自分は大した人間ではないとでも言いたげな、場合によってはまさしくそんなことを口走ってしまうような創作者が私は好きだ。要は田中和将である。あの人のインタビューはいつも痛快だ。インタビュアーを煙に巻きながら、ふとした時に真理をぽろっとこぼす。何かの雑誌などで彼の姿を見かける機会があったら、ぜひとも注目してみてほしい。そんな彼に近い要素をシャマランには勝手に感じるという話である。

にわかシャマラニストトークはこの辺にしておくとして、私は最近『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を視聴している。かなり前に一話だけ見てみてはいたのだが、その時は特に自分にはハマらなかった。またしても精神的なアレルギーの話になることを先に断っておく。私はファンタジーが苦手だ。少しでもファンタジー要素が出てくると、途端に気持ちが萎えてしまう。ファンタジーといっても様々で、いわゆる剣と魔法の世界から日常に非日常が紛れ込むようなものなど、類型だけでも田舎の小都市の人口くらいはあるだろうが、その全てが私にとっては地雷と言って差し支えないのだ。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の一話を、そうした性質を持つ人間が見たらどうなるか。すぐに、自分はこの作品のターゲットに該当しない、と思った。ありがちなファンタジー世界を描いたラノベだと思ってしまった。ヴァイオレットの衣装があまりにもゲームのキャラクターか何かのようで、愚かにも見た目で判断してしまった。それに「愛してる」を知りたい、というのもお伽話じみていて、視聴を継続したところで私は何も得られない気がした。だがそれは間違いだったことが今なら分かる。あれはファンタジーではない。扱っているのは生身の人間の本物の感情、魂だった。

現状は10話まで視聴している段階。気に入ってるのは7〜9話。7話は独立した一つの話としての完成度が素晴らしいし、8、9話のヴァイオレットの変化については今こうして思い出していても少し胸が苦しくなる。伝説と評される10話も確かに良かったが、間の悪いことについ最近限りなく近いアイディアが使われている映画を観ていたせいでそれほど、という感じになってしまった。もしかするとそれが理由ではなく、9話に揺さぶられすぎてもはや多少の揺れでは動じなくなっていただけかもしれないが。

しばらく間を開けての視聴再開となった作品は他にもある。『かげきしょうじょ!!』がそうだ。こちらは8話まで毎週新しい回がアマプラで配信されればすぐに見ていたのに、そこでストップしていた。9話が配信された時も早速見ようとサイトに行ったのだが、サムネイルになっている双子のキャラクターの楽しそうな様子を見て、何故か視聴への意欲が消えてしまった。その時点での私が彼女たちをあまり好いていなかったことが恐らくの理由だった。本当にくだらない。先日見た9話は本当に最高でしかなかった。双子ゆえの羨望や不満、それらが引き起こす小さな事件とその解決。30分足らずの間にそれだけの要素が無理なく美しく詰め込まれていた。芸術と言っていい。『ヴァイオレット〜』と同じく10話までしかまだ見られていないので、早く最後まで見たいような急ぎ足でそうしてしまうのも寂しいようなというところである。

それでは。

一時停止をして良かったと思うことってあんまり無い気がするね。

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