【五首選】山田富士郎@『現代短歌の鑑賞101』

今回初めて知った歌(と言ってもほとんどの歌が該当)に限定して五首選です。アンソロジーの三十首選からさらに五首選という贅沢。

新宿駅西口コインロッカーの中のひとつは海の音する

シュールなイメージに説得力。「新宿駅」→「西口」→「コインロッカー」→「の中のひとつ」と論理的にカメラが寄っていく初句~四句の先に、海の音が聞こえる。海は確かにそこにあるのだ。

イースターエッグを置かむうつぶせの白き背中のしろきくぼみに

なぜ置く?と考えるより先に、その意志の確かさに感じ入ってしまった。置く理由はまだわからない。でも、強調される白さとイースターエッグの鮮やかな色彩の対比が良い。もしかしたら、卵が内包している「翼」が、背中のくぼみから「復活」するのかもしれない。

柘榴割る力きたりて国家焼くべき火はいづくにねむるいづくに

柘榴が熟して自ずと割れることの裏にも「力」を見出す。その力の在り処は見えないけれど、割られた柘榴の姿は生々しい。その生々しさが、「国家焼くべき火」=核兵器を思わせる。

異星にも下着といふはあるらむかあるらめ文化の精髄なれば

どこか冗談めいた言いぶりだけど、核心を突いていると感じた。全ては下着から始まったのかもしれない。

夥しき蜻蛉を吐くけふのかぜシベリアよりの風とつたへて

風の吹き渡る景をありありと思い浮かべてしまう。「夥しき」「吐く」がいい。上句の体言止めと結句の頭にリフレインで風が現れて、思いを遠くに連れて行ってくれる。でも、この歌のイメージを喚起する力の源は、それだけではない気がする。

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