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童話【ちいさなゆめ】(幼年モノ)


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砂浜につづく土手の上に、
 ぽつんと、菜の花が一株だけ咲いています。

 この菜の花の仲間たちは、
 土手のむこうの野原でひろがって咲いています。

 このひとりぼっちの菜の花を、ぼっちと名付けましょう。

 なぜ、ぼっちが、ひとりぼっちになってしまったかというと、
 種のときに、仲間たちとちがう風にはこばれたからです。


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「はこばれた? いや、ちがう……」
 ぼっちはつぶやきました。

 昨年のあの日、とつぜん、ひとすじの風が吹きぬけました。
 ぼっちには、その風は、うすい、もも色の風に見えたのです。
 なつかしい……。
 つぎのしゅんかん、ぼっちは風に身をあずけていました。

 われにかえって、ぼっちはくやみました。
「こんなに斜めの土の上に根をおろすことができるかな」
 ぼっちは不安でした。

 しかし、ちいさな種はしっかり土手に根をおろしました。
 それでも、強いしお風がふきつけます。
「芽をだすことができるかな? できたとしても、この風では、きっと、茎をのばすことはできそうもない」

 けれども、なんとか、ぼっちは芽をだしました。
 そして、野原にはえる菜の花たちよりも細い茎をのばしました。
 細い茎には、ちゃんと葉っぱも花もついています。

 ですが、ぼっちは、種をのこすことはあきらめていました。


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種をのこすには、ひとりぼっちのちからではどうにもなりません。
 
 雄しべと雌しべをくっつけてくれる虫に
 たすけてもらわないといけません。

「さびれた土手にやってくる、もの好きな虫はいないだろう」

 と、そこに、
 ブ、ブーン!
 いっぴきのちいさなミツバチがとんできたのです。

「あら、すてき! こんなところに、菜の花が咲いているなんて」
 ミツバチは弱っていました。

 春のしごとをおえて、
 ミツバチはちいさな命をおえようとしていました。

「いっぺん、海を見てみたかったの」
 ミツバチはほほえむと、ぼっちの上におちました。

#童話 #短編童話 #言霊さん #言霊屋

〜創作日記〜
これは「菜の花」がテーマの子ども向けの童話でした。
擬人化するのも、
子どもを登場させるのも、
テーマがずれてしまいそうで、あえてシンプルにしました。

イラスト:aya_ashiato様

新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。