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圧力を魔法のように操る蔵人の話。

蔵人です。
芋焼酎は麹や原料芋の品種、酵母の違いなどバラエティー豊かで
どれをえらんでいいのか悩みどころでもありますよね。
もう一つの選択肢として

常圧蒸留と減圧蒸留の違いがあります。


「蒸留」は蒸留釜とよばれる大きなやかんにモロミを入れてあたため、
出てきた蒸気を冷やして液体に戻すといった工程で、
芋焼酎でアルコール度数37度前後の原酒が出来上がります。

モロミの段階では麹や酵母、原料芋由来の香りが出てきますが、
蒸留でもモロミのアルコールや酸、糖分が熱化学反応することで
いろいろな成分が出ます。
蒸留のやり方によって味わいは劇的に変わるので重要な工程です

芋焼酎の一般的な蒸留方法は「常圧蒸留」で、
これは普段生活している環境で行います。
やかんや鍋でぐつぐつ煮出して、湯気を集めているようなイメージです。

(注)本当は直火でやりません。

煮込んだり焼いたりしたときにただよう、おいしそうなにおいが
焼酎に移るのが常圧蒸留の特徴ですが、これが主原料の

「らしさ」

になります。
華やかな香りも出てはいるんですが埋もれてあまり目立ちません。
さらに行き過ぎると焦げ臭いといったことにもなります。

いろいろな香味がでることで酒質に幅が出るのがこの方法の良さです。
その反面、芋焼酎の独特のクセはここから生まれるので、
芋焼酎ビギナーのハードルを上げることにもなっているんじゃないかなぁと思うのです。

減圧蒸留は釜の空気を抜いて気圧を下げ、真空に近い状態で蒸留する方法です。

富士山のような標高の高いところでは液体は平地よりも低い温度で
沸騰しますが、蒸留釜の中でもこのような環境を再現します。
一定の大気圧まで空気を抜いていくと釜の中の温度が50度くらいで
沸騰し始めてアルコールが出てきます。

山頂で蒸留した焼酎、飲んでみたい。

常圧蒸留にくらべると香ばしいかおりは出にくいのが特徴で、
沸点の低いところで出てくる果物や花のようなすぅっとした華やかな香りが目立ってきます。某接着剤セメ〇インのような化学的なにおいにも感じられます。
味わいは軽くソフトで後口がキリっとしたものが多いです。
常圧蒸留に比べると飲みやすさを感じるかもしれません。

でも芋焼酎といえば…!!!

芋焼酎のクセを乗り越え「スキ!」になったとき、他の原料の焼酎が物足りなくなります。

芋焼酎の世界へようこそ。


もっと濃く……もっと濃くと常圧ゴリゴリに食指が向くことで、
あえてクセを抑えた減圧蒸留は見向きもしない芋玄人が誕生することもしばしば。
減圧蒸留の芋焼酎も趣向が違っておいしいとは思うんですが…(蔵人個人の見解です)。


減圧蒸留焼酎の飲み方ですが、華やかな香りは温めるとすぐに飛んでしまうのでお湯割りにはあまり向いていないように思います。
オンザロックスか水割り、ソーダ割がおすすめです。
暑い夏の日に冷たくキリっとした味わい…まさに夏向けの焼酎といえますよね。

ライトな味わいが「これから芋焼酎に挑戦してみたい」
という方にはぜひおすすめです。
玄人の方にも「芋焼酎ってこんな味も出るんだ~」
という発見と感動を味わっていただきたいですね。

ちなみに「焼酎」は夏の季語だそうで普段お湯割り派の蔵人には少し意外に感じます。


ちなみに…。

実は芋焼酎の減圧蒸留は米焼酎や麦焼酎ほどメジャーではないです。
なんでかというと、常圧蒸留に比べて技術的にむずかしい。
芋焼酎のモロミは芋の繊維分をたっぷり含んでいてとてもドロドロです。
常圧蒸留では釜の中を蒸気で強制的に混ぜられます。
減圧蒸留は釜の外側から温めるので釜の中が混ざりにくく、
均一に蒸留しにくいんです。さらにアルコールが出ていくと
中のモロミから液体成分が抜けてもっとドロドロに…。
実際の操作ではちょっとした工夫が必要になります。

魔法のように圧力を操り、焼酎の味わいをコントロールする。
まさに腕の見せ所、焼酎の世界は奥が深いですねぇ。


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