曲のプロット

携帯が一定のリズムで震えるたびBPMを上げる心臓を抑えることが難しい。
持ち上げた携帯の暗い液晶に映る自分の抑えきれない小さな笑みを見ると、自分の感情にすら嘘をつけないことに気が付く。果たして自分の中に押し込めることすらできないこの感情は誰かに気づかれてしまっているのだろうかと考えると不思議とそれも悪くないな、と思ってしまう。
光る液晶に映る君の名前を見るだけで温度計が七度を示す寒い部屋にいるということを忘れてしまう。温かいスープのような君の言葉が僕の心に深く染み込んでくる。ジワリ、またジワリと吸い込まれていくたびに、もう自分は抜け出せないところにいるんだと強く実感する。

自分の恋愛に自信が持てなくなったのは一体いつのことだっただろうか。高校か、あるいは大学か。人を好きになってもいつか恋心もスープのように冷めていってしまうのではと不安感は消えない。恋心も某企業のスープジャーに入れられればいつまでも温かいままでいられるのかな。
本当の恋をしたことはあるかと誰かに聞かれても、ありますと言えるかはわからない。少なくとも結婚まで考えるような恋愛をしたことはあるが、果たしてあれが世で言うところの『本当の恋』であったかはわからない。そこまで考えた恋ですら終りを迎えたことを考えると、あながち鴨長明が方丈記に書いた「淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」というのは真理ではないかと思える。諸行無常っていうもんね。とにかく、本当の恋というものが何なのかが分からないからこそ恋をするのは怖いんだ。自分に自信がないと言うのはそういうことだ。

できたてのスープみたいなこの気持ちと君の言葉はモクモクと湯気を上げていて、君の住む街に今すぐ走っていきたい衝動に駆られる。物事を複雑に考えると思考の迷宮に迷い込んでしまうし、なるべくシンプルに生きていきたい。周りのこととか親のこととか自分のこととか君のこととか、考えだしたらキリがないし考えるのはやめよう。まだまだ自分に自信はないけど、ありのままの君が好きだということだけはわかっている。そこにいてくれさえすればいい。熱いスープみたいに君の心をほぐせるように、君に届くように指先で紡ぐ短い文章。そこに込めた思いが届くかどうかはわからない。
願わくば一定のリズムで君の携帯を震わせ、君の心臓のBPMを上げられたらと思いながら、鴨長明の時代なら何日もかかったであろう距離にいる君のもとへ何気なさを装った短歌を送ろう。

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