趣味の入り口

#忘れられない一本 をテーマにひとつ。

自分は文房具が好きである。
特に筆記に関わるものが好きで、シャープペンシルに魅入られたのだ。

高校生の頃、自分は鉛筆を好んで使用していた。
紙に黒鉛を擦りつける。さらさらとした感触、心地よい音。
ナイフで削ったときの匂いも、感覚を刺激する。
鉛筆と時間を共にしていることに幸せを感じていた。

そんな鉛筆でも、不得手とすることがある。
それは細かい文字を書くことである。
鉛筆の持つダイナミクスさを存分に楽しんでいた自分は、
「筆記試験」の紙面積制限に、ある日、苦しむこととなった。

適材適所、試験には試験に適した筆記具がある。
そう考えて、均一な字幅を実現できる シャープペンシル に焦点を当てたのだ。

ちょうどこの時期に誕生日を迎えていた自分は、手持ちに新たな文具を加えていた。
友人からお祝いとして、三菱鉛筆の「PURE MALT」(軸径10.9 mm)を贈られていたのだ。
木軸が妙に手になじむ。
重量と安心感がある。
鉛筆と違う楽しさがあった。

これが、シャープペンシル沼に沈んでいく第一歩となってしまうとは、当時の自分が知る由もなかった。

PURE MALTを手にした自分は、鉛筆との使用感のギャップに納得いかなかった。
「もっと鉛筆に近いものがないだろうか?」
この考えが、沼への沈降を加速させてしまう。
それから自分は近所の文房具屋に通い、新たなシャープペンシルを購入しては懐に収めていった。
そしてあるときから、
「もっと鉛筆に近いものがないだろうか?」
は、
「他のシャープペンシルの書き味を知りたい!」
へと変わっていった。
知ることは楽しく、好きであることへの架け橋となるのだ。

結局、"鉛筆に近い" という観点で納得できるものは見つからず、
かわりに、シャープペンシルとして好きになったものがたくさん登場した。
今では新製品が発売すると、買い求めに文具屋に駆け込む自分がいる。
好みではなかったと、ペン立てに埋もれていくペンも少なくない。
しかし、どうしても忘れることができないシャープペンシルがあって、
それは新たな趣味への入り口となったPURE MALT。
使えば使い込むほどに手になじみ、楽しい筆記を約束してくれる。
このペンを知らなければ、今の自分は少し違っていたかもしれない。
そう思わせてくれる素敵な一本が、自分の趣味を彩るのだ。