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ハローハロー

宗助は、空を見上げるのが大好きな子供だ。もっとも、そういう子供は多くいるだろう。天気のいい日に、母親と手をつないで上ばかりみている危なっかしい子供は。
しかし、宗助はどんよりと曇った空を見上げるのが好きな子供だ。雲は黒くて分厚いほどよい。雨雲には興味がなく、どんより分厚い曇り空を、大きな目をキラキラさせて見上げている。

幼稚園から帰って手を洗い終わった宗助は、いつものように、自分の部屋の窓から空を眺めていた。
しかし、空の様子はいつもと違っていた。灰色の雲よりも黒い豆粒のような点が、低く垂れこめた雲のふちを、ものすごいスピードで移動しているのだ。
くねくねと蛇行したと思えば、雲の中に突っ込みまた出てくる。その動きは、飛行機やヘリコプターといった機械よりも、意思をもった生き物のそれに近い。

宗助は、あわてて窓際から離れた。すぐに、宝物を入れてある黒い箱をごそごそと探す。
先週動物園に行ったときに買ってもらった望遠鏡を取り出して、黒い点に焦点を合わせた。

「うわぁ…!」

そこには、高速移動するペンギンがいた。海の中を泳ぐように素早く移動しているので、目で追うのは一苦労だ。
しかし、ところどころ見える姿、丸い目に白と黒の身体、黄色い足は紛れもないペンギンだった。宗助が図鑑で見たそのものだ。ただし、空を飛んでいるということを除けばだが。

「あれ?」

スイスイと飛び回るペンギンのお腹の下に、キラキラ光るものを見つけ、宗助は首を傾げた。あれはいったい何だろうか?
ペンギンが通った後に、キラキラとしたものが生まれていた。飛行機雲のようなものだろうか。いや、違う。

「こおりをすべってる!」

宗助は思わず歓声を上げた。そう、ペンギンは空を飛んでいるのではない、空を滑っているのだ。
滑って滑って、雲がキラキラした氷に覆われた時、レンズの向こうのペンギンがにっこりと笑った。

瞬間、雲を飾りつけていた氷が粉々に砕け散る。きらきら光る氷の細かな粒が、黒い雲の下に広がって、水滴に変わった。
高速移動をやめたペンギンが、雨に濡れてつやつやになった羽を左右に振る。宗助は、迷わず手を振り返した。


宗助は曇り空がすきな子どもだった。分厚い雲の上を想像するのが大好きだったから。そして今は、ペンギンと雨も同じくらい好きな子どもになったのだった。

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