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終わりなき共感

 マンションの前の公園に、2本の木が生えている。1本の木は欅の木であり、もう1本の木は欅の木である。2本の木の間には立方体の遊具があり、その角は大きく欠けていて、それはもう立方体でなくなっていて、いつ黄身が出てきてもおかしくない状態だ。
「一度でいいからママと呼んでください」
 嘆願する母親らしきをよそに娘は頭からズボンをかぶっている。わたしはそっと人工涙を点す。己のテンペラメントに符号させ、都合の良い面だけを取り上げる。砂場では2人の子どもが、新しい臓器をつくろうと画策している。どうしても緑の心臓になってしまうようだ。こんな歪んだ舟ではこの植民地化された神経終末から出ていくこと叶わないだろう。のっぺらぼうの犬の前に1台の赤いミニカーがあり、私の唇を読めますか。犬はそれにそう吠えていた。

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